僕は僕の偽物。

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「実は俺、俺の偽物だった」  僕(伊藤ハジメ)と、友人2人(ふたり)(鈴木カノンと山田サトル)のいつもの3人組でリモート飲み会をしていると、山田が妙な事を言いだした。 「ナイスジョーク」と僕。 「そっか。で、宇宙人? それとも異世界人?」こちらはカノン。  僕とカノンは冗談と受け取り、笑い飛ばす。  しかし、山田は声を抑えたまま話を続ける。 「昨日思い出したんだ。俺は『山田サトル』という人間を殺して入れ替わった別人だって」  何の告白だ。  そもそも、山田という男はあまり冗談をいう人物(キャラ)ではない。  珍しく、作り話で僕達を楽しませるというのか。  それとも。  僕とカノンは、無言で山田に次を(うなが)す。 「お前らも俺と同じだけどな」 「……どういうこと?」  カノンの美しい眉がひそめられた。 「ていうか、山田がどうか知らないけど、アタシは自分が『鈴木カノン』だという記憶があるし、あんたたち2人(ふたり)が『山田サトル』と『伊藤ハジメ』だって記憶もしっかりあるんだけど」  カノンが冷静に反論する。  僕も同意の意を示す。  山田は「俺にもあったけど、」と続ける。 「今日、リモート飲み会をしようと言い出したのは俺なんだけど、素面(しらふ)でこの話をする勇気がなかったからなんだ。今やっと勇気が出たから。2人(ふたり)に、」  (のど)がつっかえたのか、山田は缶ハイボールをグビッと飲み込んだ。 「2人(ふたり)に話す。まず1番。俺達の記憶は(ニセ)の記憶に置き換わっている。2番、俺達3人は元々、犯罪者仲間だ。3番、俺も全てを思い出した訳ではないが『キーワード』は思い出した。これ(丶丶)を聞けば、お前ら2人も真実を思い出す『夢』を()るはずだ」  やはり、ジョークだろう。  ナイスジョーク、山田。 「ふ、ふーん。なら、そのキーワードとやらを教えなさいよ」 「キーワードは『山小屋』だ。よし、ここまで。今日はありがとう」  また突然に、山田が接続を切った。  残された2人(ふたり)。 「今日の山田は一体、何だったのかしらね」 「うーん、何かドッキリを仕掛けようとしてるのかも」  しばらく無言でいたが、今日の飲み会はここでお開きとなった。  その夜、僕は夢を見た。  僕らは3人で、白い山小屋にいた。  目の前には目隠しと後ろ手にされた、こちらも男女3人。  僕らは、この3人の戸籍を奪う計画を相談している。  僕と山田は深く穴を掘った。  次にスコップで散々殴りつける。  白い壁に赤い飛沫(しぶき)が飛ぶ。  穴に放り込み土を(かぶ)せた。  そして、互いに暗示を掛け合う。  自分が『伊藤ハジメ』だと。  僕は僕の偽物だった。
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