林田の週末

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林田の週末

 俺は、仕事でストレスがたまったその週末は、山へ出掛けることにしている。登山が好きなわけじゃない。俺にとって、都合がいいんだ。  山には、老若男女問わず、様々な人間が訪れる。  俺はその中でなるべく寂しそうな、ソロ登山者に声をかけるんだ。  一人で登っている者は、ストイックな印象で、自分や自然との対話を求めているように感じるかもしれない。しかし、周りでカップルや家族連れを見かけてしまうと、人恋しくなり、コミュニケーションを求める者も少なくないのだ。  そんな者を見つけたら、俺は必ず声をかける。  仲良くなれたらこっちのものだ。  山奥でもよし。  帰りの車中でもよし。  気を許した相手の命を奪うのは、そんなに難しいことではない。  それに、登山をする人間の肉は、引き締まっていて、なかなか美味いんだ。  今日もまた、ストレスを抱えて山に来てしまった。今夜はふるさと納税の蟹が届くというのに…。  まあ、いいか。俺の家の冷蔵庫はデカい。  おや、天気が崩れてきたな。ちょっと急がなくちゃいけない。
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