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「その人はどうしているんだい」
「……あいつは……受け止めきれないんだと思います。素直に悲しんだりというのを見せてはいませんが、きっと……」
他に何人もの彼女がいて、そこにうつつを抜かしているとは言えなかった。
お母さんは鼻をぐずぐずと鳴らし、ハンカチで涙を拭いながら訊ねる。
「その方のお名前はなんていうの?」
「和樹……内村 和樹です」
名前を聞くと、彼女の父は封筒を差し出した。
「これを内村さんに渡してくれませんか」
「これは?」
かなりぶ厚い、中華風の封筒だ。
中身は手紙だろうか。
「台湾で行う娘の葬儀に参加して欲しいのです。あの子が好きになった人ですから。無理を申し上げているのはこちらなので、そのための謝礼金も入っています。滞在中のホテルなどもこちらで手配する旨のお手紙を入れてあります」
彼女の家は台湾の資産家で、伝統ある家柄だと聞いている。
そんな所にあの礼儀知らずを連れて行って、何か失礼でもあってはいけないのではないかと俺は焦った。
「でも……言葉も通じないですし」
「通訳もご用意しましょう。内村さんが困ることは無いように配慮します」
そう言われるとただの友人である俺には口を挟みにくい。
「な……ならば、俺も同行させていただくわけにはいきませんか。一人では不安でしょうし」
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