【旅行気分 Side・和樹】

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【旅行気分 Side・和樹】

剛に殴られそうになった日から2日後、あいつはケロリとした顔で俺の前に現れた。 「和樹、この間は感情的になって悪かったな」 ほらな。結局コイツには俺しか友達がいないんだから、謝ってくるんだ。 「まあ良いさ、仕方ねえから学食のAランチで許してやるよ」 俺も便利な友達を手放すのはまだ惜しい。 今度のレポートの予備調査も任せたいしな。 「そんでさ、王ちゃんの両親からこれを預かったんだ」 「なんだコレ?」 剛が差し出してきたのは妙に厚い中華風の封筒だ。 「お前に台湾でやる王ちゃんの葬儀に出て欲しいんだって。パスポートまだ切れてないよな?」 「ああ、高校の修学旅行の時に取ったやつがまだ……でもなぁ、面倒くせえな」 ほんの一瞬剛の表情が固まったように見えたが、すぐに持ち直す。 やっぱまだあの娘のこと引きずってんのな。 「そう言うなよ。謝礼金も出るし、聞いたら高級ホテルに滞在で、豪華な食事も用意してくれるってよ。通訳なんかも付けてくれるから、旅行気分でさ」 「なんかヤケに推してくんじゃん」 「いや俺さ、王ちゃんの彼氏を知ってるかって聞かれて、ご両親にお前が悲しんでるって言っちゃったんだよ。だから悲しんでるフリだけでもしてくれないと困る」 なるほど、だからこんなご機嫌取りみたいな感じなんだな。
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