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第一章 盗賊の英雄
「笑う鈴の音?」
「怖い話はやめてよー」
興味を示す白い鳥人の少女は興味を示したが、緑髪の人間である少年はそうではなかった。あぐらをかいて座り込んでいる一つにまとめた黒髪が美しい半獣少年の後ろでしきりに震えている。
「へえ、ここいらで噂になってる暗殺者なんですけどね。何でも各地の英雄にひけを取らない腕前なんだとか。鈴をつけているらしいんですけど、誰も鳴る音を聞いた事がないんですよ」
「そんな噂聞いたことも無いけれど」
鳥人の少女――エレナは毛を逆立てた尻尾を立てた半獣人の少年に目を向けて怪訝な顔をする。目を向けられた少年――クローはムスッとした表情のままエレナを睨み返すが以前尻尾は立ち上がったままだ。背に隠れた少年アッシュはクローの尻尾と身体の隙間からエレナの様子を覗き見ていたが、目があって完全に隠れてしまった。
嘆息してエレナはイレグに視線を戻した。
クローは師匠と二人で山ごもりを続けていた身、アッシュはアッシュで辺境の田舎育ちだ。この様子でなくても聞いても無駄だろう。
「噂が流れてるのに暗殺として凄腕なのか」
頬杖をついたまま呟くクローは懐疑的な眼差しをイレグに向ける。
「依頼人は生きてやすからね。依頼人からばれたか、それとも本人か仲間が触れ回っているのか裏だけで囁かれている小さな噂なんでして」
「依頼人からなら表でも噂になる筈じゃない?」
エレナの問いかけにイレグはにやりと笑った。
「依頼人が表の人間とは限らないでしょう? 現にどうも……依頼人も裏の人間、それも盗賊との噂が」
「噂ばかりだな」
呆れたようにクローは嘆息して、以前尻尾を掴んで離さないアッシュを睨みつける。
「まあともかく、この辺りであっしが知ってる英雄の噂ってのはこれくらいでさあ。この辺りはともかく盗賊被害や山賊被害が多くてですね、ちょっと進めば砂漠も近いから砂賊なんてものも出る。ただ、お陰で魔物被害が少なく、賊同士の獲物の取り扱いも多いんでさあ。帝国が領土としてこの地域を収めることに異論を唱えるものも少ない。いっそ、帝国に取り込まれた方が平和なのでわまである。
賊が狙うのは町や村よりめっぽうあっしみたいな旅の商人ですからねえ。
英雄が訪れても護衛としてでいつきやせんし。だから、ここを守りたいなんて連中はバーグタウンの衛兵連中――」
「論外ね。盗賊に助けを求めるなんて」
まだ喋りたりなさそうなイレグの言葉をエレナはぴしゃりと締め切った。
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