10人が本棚に入れています
本棚に追加
「終わった」
虚無空間に私の独り言が響く。復讐を終えれば少しは救われるかもしれないと思っていたけれど、全然そんな事は無かった。
「ねえ。私、頑張ったよ。魔王どころか勇者まで倒しちゃったんだから」
ちゃんと強くなった。弱虫じゃなくなった。なのに何で褒めてくれないんだろう。
……今となっては分かる。彼はきっと心の深い所でこの世界の真実に気付いていて、私がプレイヤーに選ばれるように、私を守るために、強いキャラクターにしたかったのだろう。
でも、強いだけじゃ駄目らしいよ。猫耳とか爆乳じゃないと。そう言ったら彼はどんな顔をするかな。
「……一人は、嫌だな」
憎むべき相手が消えたら、愛すべき人が再び心を占め始めた。胸が詰まり呼吸が下手になる。……久しく忘れていた感覚。私の頬を、何百年ぶりかの涙が伝った。『泣き虫だな』なんてぶっきらぼうな声を期待するが、誰もいない終焉は静寂に満ちたまま。
どうしてこんな事になってしまったのだろう。私は口うるさい幼馴染と勇者ごっこをして、兄の作るあったかいご飯を食べていられれば、それだけで良かったのに。
「ねえ。泣いてるんだから、早く来てよ」
そして不器用に、優しく叱って欲しい。じゃないと干からびてしまう。
――涙で滲んだ冷たく暗い世界に、光が溢れた。
散らばった無数のクリスタルが、私を慰めるように輝いている。一つで世界を手に出来る力があるというクリスタル。それがこれだけあるのだから、世界を変える位の奇跡を見せてくれてもいいんじゃないだろうか。
私は、手を組んで目を閉じ、ひたすら祈り続けた。
永遠に等しい時間の果て。
私は自分の頭に触れる暖かな手に、泣き虫になる。
ずっと呼べなかった彼の本当の名前が、ようやく口をついた。
最初のコメントを投稿しよう!