【リセマラ勇者を許さない】

6/7
前へ
/7ページ
次へ
 小さな町で生まれ育った少年ハルト。クリスタルの導きによって勇者となった彼は、仲間と共に旅に出た。幼い頃に罠から助けてあげた獣人族(ねこみみ)の少女と、身分を隠し臣民の為に戦う姫君と共に。 「ハルトやったな! 遂に魔王撃破だっ!」 「ハルト様、あなた様なら成し遂げると思っておりました。流石は(わたくし)の勇者様です」 「はあ? オイ姫さん、誰が誰のモンだって!?」  ミーアが長いツインテールを振り乱し、リリィ姫とハルトの間に割って入る。リリィはキャッと可憐な悲鳴を上げ、ハルトの腕に豊満な胸を押し付けた。 「おいハルト! ここらでハッキリして貰うぞ! アタシと姫さんのどっちを選ぶんだ!?」 「そうですわハルト様! ご決断下さいまし。(わたくし)と結婚して王になって下さいますわよね?」  →ミーアを選ぶ  →リリィを選ぶ (おいおいマジでギャルゲーだな! どうすっか……セーブしてどっちのルートも見るか)  悠人(はると)は手慣れた操作でメニュー画面を開く。しかしいつもそこにある筈の『SAVE』の文字は見当たらなかった。目を細めて凝視すると、パソコンの画面がガガッと大きく乱れる。 (な、何だこれ、バグか?)  それはすぐに収まった。しかしメニューは勝手に閉じられており、画面は再び魔王の居なくなった魔王城を映している。静かなCG背景――玉座の奥の扉が開き……そこから一人の女が現れた。  黒衣に身を纏った、いかにもな魔女。長いおさげ髪を垂らし三角帽子を被っている。悠人はどこかでこんなキャラクターを見た事があるなと思った。  二人のヒロインは女の出現に気付かず、頬を染めてハルトの選択を待ったまま、止まっている。 「勇者ハルト。私はあなたを待っていた。あなたに復讐するために」 (復讐って何の話だ? どういう設定だよコレ。隠しボスか?) 「……そう。あなたは自覚もしていないのね。自分がどれだけ残酷な事をしてきたか」 (オイオイ何だこいつ……が何も喋ってないのにペラペラと)  まるで俺に話しかけているみたいじゃないか、という悠人の思考を読んだように、女がわらった。その手がマントの裏から分厚い眼鏡を取り出し、掛ける。 「私はあなたが捨てた世界の――勇者の幼馴染、メルル。あなたの幼馴染じゃなくて“彼の”だけどね」  悠人はゲームのしすぎで夢でも見ているのかと思った。  メルルは静かに語る。それはもうゲームのウィンドウ内のテキストではない。スピーカー越しの音声でもない。悠人の脳に直接語りかけてくる。 「どうして私達の世界が止まってしまったのか。どうしてあなたが……彼を消したのか。クリスタルが全て教えてくれたの」  メルルがマントを広げると、バラバラとクリスタルが落ちた。それは十、百……途方もない数である。  ――メルルは、クリスタルの力で世界を超えた。悠人“達”の身勝手で壊された数多の世界、消された勇者達を目の当たりにし、復讐心を募らせた。  どんなに辛くとも、その“リセット”に介入する事は出来なかった。勇者との決戦は、魔王(ラスボス)にしか許されていないからだ。メルルは悠人の前に最強最悪の敵として立つ為、無数のクリスタルを得て真の魔王となり、この時を待っていた。悠人が最終局面まで辿り着く時を。 「あなたにとってはただの遊び。暇潰し。私達はそれに弄ばれ、踏みにじられた」  に歩み寄る女。コントローラーのどこを押しても何も反応せず、悠人は気味が悪くなり、パソコンの電源をオフにする――が、消えない。画面の奥から伸びた女の手が次元を超え、悠人の目前に迫る。 「勇者。いえ、プレイヤー悠人。消された世界の恨みを思い知りなさい」 「あ、あ、ああああ!」  悠人の叫び声に慌てて駆け付けた母親が見たものは、『GAME OVER』が表示された画面。その前で虚空を見つめ、廃人と化す息子の姿だった。  ――全国で多発した、特定のオンラインゲームによる精神障害事件。呆然自失状態になるプレイヤーが後を絶たず、原因の特定に至らぬまま、そのゲームはサービス終了となった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加