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あれから、3年後――。
僕は、大きな病院に居た。
香澄の出産に立ち会う為だ。
新しい命をこの世に紡ぐ為、必死に息を吐く香澄。
僕は彼女の傍らでその手を握り、ずっと声をかけ続けていた。
と、不意に赤ちゃんの泣き声が部屋中に響き渡る。
(産まれたんだ――!)
「よく頑張ったね!ありがとう、香澄!」
僕は香澄の頬に触れると、そう言葉をかけた。
香澄は僕の言葉に頷くと、そっと視線を赤ちゃんに向ける。
瞬間、彼女の口元に笑みが広がった。
「ねぇ、見て……!」
彼女の言葉につられて、赤ちゃんに目を向ける僕。
そこで看護師さんに抱かれていたのは――ふわふわとした生え揃わない髪、その一房だけが桜色に染まった女の子の赤ちゃんだった。
僕は、自然と彼女に手を伸ばすや、その柔らかな髪にそっと触れたまま、声をかける。
「また会えたね、桜子」
――僕達の元に生まれて来てくれて、本当にありがとう。
泣きながら笑う僕の耳に、軽やかな――鈴を振る様な少女の声で、あの日の指切りの歌がもう1度聞こえた気がした。
【完】
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