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――遡る事数時間前。
僕こと滝川 翔は、終業後、会社の仲間達と上野恩賜公園を訪れていた。
目的は勿論、この見事なまでの桜だ。
今年は暖冬だった為、開花が例年より早くなっているとニュースで知り、急遽皆で計画を立てたのである。
こうして、死ぬ気で定時内に仕事を終わらせ、上野に来た僕達。
「本当に、見事なもんだなぁ」
満開の桜を見て、部長がそう感嘆の声を漏らした。
無理もない。
それ程、上野の桜は見事だったのだ。
ちなみに、その時の時刻は18時。
夜桜にはまだ明るいが、僕達は許可されたエリアにレジャーシートを敷くと、早速お花見を楽しむことにした。
美しい桜と、大量のご馳走。
それに、キンキンに冷えたビール。
それはもう、まさにこの世の楽園で――お花見の宴を心行くまで満喫した僕達。
そうして、それから数時間後。
あと少しで終電という時刻になり、僕達は漸く解散する。
だが、一番家が近い僕は、最後まで残って片付けをする事にした。
すると、そんな僕の背後から突然声がかけられる。
「ねぇ、ちょっと!」
――アニメ声とでも言うのだろうか。
女性の声優さんにいそうな、とても可愛らしい声だ。
「はい?どうしました?」
声につられる様にして振り返る僕。
と、そこにいたのは――色とりどりの十二単を纏った美少女だった。
彼女は、その地面にまでつきそうな桜色の長い髪を揺らしながら、僕に近付いて来る。
そして、扇子でビシィッと僕を指し、こう告げた。
「アンタ!私をお花見に連れて行きなさい!」
拝啓お父さん、お母さん。
会社でのお花見の終了後、残って片付けをしていたら、桜色の髪をした見ず知らずの美少女に絡まれました。
一体何の因果でしょうか。
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