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蓮の想い
萌果ちゃんが初めてお店に来た日、俺はその可愛さに思わず目を奪われた。
その後も週末になると必ず来てくれて、その度に俺は結構わかりやすいくらいに猛アピールしてるつもりだけど、萌果ちゃんはいつもはぐらかしてまともに取り合ってはくれない。
その理由が分からないほど、俺は鈍感じゃないつもり。
だって、彼女の視線の先はいつだって優希くんなんだから。
「萌果ちゃん、萌果ちゃん起きて」
「ん…あれ?寝ちゃってた?」
「そろそろ始発出るよ?大丈夫?」
「え?もうそんな時間?じゃあ帰るね、今日は色々ありがとう」
「おう、またね」
手が放せなかったせいでそのまま萌果ちゃんを見送ったけど、やっぱり気になって仕方がなくて、閉店作業をしている優希くんに一言声をかけた。
もちろん煽る気満々で、これは俺からの宣戦布告だ!
「優希くん俺、やっぱ萌果ちゃん送ってきますね」
「…っ、おう」
気になってるなら行けばいいのに…
優希くんがそんなんなら俺、奪っちゃいますよ?
心の中でそう呟いて急いで外に出た。
萌果ちゃんに追いつくように駅に向かって走っていると、黒服の男に腕を捕まれ連れて行かれそうになっている萌果ちゃんをみつけて、俺は急いでその場所まで全力で走った。
そして男の行動がだんだんエスカレートしているのがわかって、俺は容赦なくそいつの腕を掴んで引き上げた。
「俺の女に何してんの?」
「…っ、蓮くん…っ」
黒服の男は観念したのか、舌打ちしながら去って行った。
カッとなってついでた言葉だったけど、今にも泣きそうな萌果ちゃんを見てもう理性が押さえられそうになくて、俺は思わず萌果ちゃんを引き寄せて抱きしめた。
「大丈夫?」
萌果ちゃんは俺の腕の中で無言で頷くと、肩を震わせ泣き出してしまった。
駅までの短い距離だからと油断した俺が悪かった…
トントンと背中を撫でながら落ち着かせると、萌果ちゃんは次第に落ち着いてきてほっと胸をなでおろした。
「送ってやれなくてごめん…気持ちが落ち着いたら今度こそちゃんと駅まで送るから」
「うん、ありがと…」
「本当は帰したくないんだけどね」
「蓮くん…どこまで本気かわかんないよ…っ」
俺自身も萌果ちゃんに対する気持ちがどこまで本気かなんてまだわからなくて、 けど…帰したくない、愛おしい、と思う気持ちがあるのは確かなんだ。
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