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突然の出会いが嵐のように過ぎ去っていった後、BARに向かわなきゃいけない事を思い出し、現実に戻された私の足取りは重く、やっぱり帰ろうかなとすら思った。
優希がいないとはいえ、あれからまだ誰とも会ってないからすごく気まずくて、 扉の前で大きく深呼吸をした。
「こんばんは…」
「おっ、いらっしゃい」
いつものように出迎えてくれた蓮くんと、蓮くんを遮るように私の前に現れたあすか。
「萌果ぁ!今まで何してたん?心配させんなよぉ…」
「ごめん…」
気まずい空気を察してか、雅希さんがいつもの飲み物を用意してくれて私の前に置いた。
「大丈夫?少しは落ち着いた?」
「うん…けど本当に優希来ないよね?」
念の為の確認。
これで急に来られたら本当にどうしていいか分からないもん。
「今日は来ないよ、けどちゃんと話してないでしょ?」
「話したくない、連絡もないし…」
「そっか…なら仕方ないか…」
少し残念そうな雅希さんが厨房の奥に入って行くと、カウンター越しに蓮くんが私の顔を覗き込んで、あすかが私の隣に座った。
「もういいじゃん、優希くんなんか無視無視。俺と飲もうぜ」
「何でいつも蓮ばっかなん?俺も萌果と飲む~」
あすかが私の横で騒ぎ出したのを何となく眺めてると、カウンター席の奥の方にギターケースが立てかけてあって、その奥に見たことのあるフワフワの髪の毛の子が座っていて、お互いバッチリと目が合った。
「「あ!」」
「えっ、何で!?友達の所って…」
「萌果の用事って?」
まさか、初対面で意気投合したさっきの彼がこんなところにいるなんて…
一体誰と友達なんだろう…
そんな疑問が頭をよぎると、厨房の奥から雅希さんが顔を出した。
「何?二人知り合い?」
「ううん、さっきコンビニで…」
「そぉ!さっきコンビニでバンドの話してねっ!それで、好きなバンドが一緒で盛り上がって、それで今度ライブあるから来てねって、そんでそんで…」
「桃太、落ち着いて…」
「あはっ、ごめんごめん!」
興奮して立ち上がる桃ちゃんを落ち着かせるべく、雅希さんが座らせると、桃ちゃんは大人しく席に着いた。
雅希さんが桃ちゃんの事を桃太と呼んだって事は、ただのお客さんと従業員の関係ではなさそうだし、蓮くんもあすかもポカンとしているところを見ると、恐らく雅希さん側なんだろうけど、桃ちゃんの見た感じ年齢的にはうちらの方が近い…って事は…!?
私は桃ちゃんが誰の友達なのか、恐る恐る聞いてみた。
「ほんと…まさかこんなところで会うなんて思ってなかった。で、誰と友達?」
「あぁ、優希だよ?雅兄も店のみんなも友達だけどね!」
「そっか…」
「うん!…あれ?何かまずいこと言った?ねぇ?みんなどおしたの?」
「何でもないよっ、気にしないで!」
変な空気になりかけたところを慌てて繕っては見たものの、カウンター席の雰囲気は重い。
「あ…ねぇ萌果ちゃん、せっかくだからさっきの話の続きしようよ!」
桃ちゃんがそんな雰囲気を察してか、私に別の話を振ってくれたけど、今日は蓮くんに呼び出されていているのでチラッと蓮くんに視線を移し、お伺いを立てた。
「桃太くんごめん、今日は俺が萌果ちゃん呼んだから先にいい?」
「そぉなの?わかった、じゃあ待ってるね!」
ニコニコの桃ちゃんと対称的に、どこか不満そうな顔の蓮くん。
これから何を聞かれるのか不安で仕方ない…
桃ちゃんと雅希さんが二人で話し始ると、私達も向こうとは別に話を始めた。
「てかさ、コンビニで会っただけで、何であんなに仲良くなれるの?」
「いや、それは…たまたま好きなバンドが同じで意気投合しただけだよ…」
「ほんと、萌果ちゃんて隙だらけだよね…気をつけないと変な人に連れてかれちゃうよ?」
蓮くんの言葉に、私は何も言い返せなかった。
智哉の件もあったし、玲亜くんに無自覚?って言われた事も、そもそも優希とだって私の軽率な行動が招いた結果だし…
優希が女の子とどうとか…そんな事、私が言える立場じゃないのかもしれない。
「で、この前…店出た後どこで何してたの?」
「え?あ…ネカフェ…ずっとネカフェにいた…っ」
「ふぅん」
蓮くんの冷たい視線は、私の嘘を絶対に見透かしている…
きっと軽い女だって思われてるに違いない。
だけど蓮くんにだって嫌われたくない…
そう思う私はやっぱりずるいんだろうか。
二人の間に沈黙が流れると、ボソッと蓮くんが呟いた。
「頼ってくれても良かったのに…」
「えっ…」
「俺の事、頼ってくれても良かったのに…っ」
不貞腐れたように俯く蓮くんとふと目が合うと、その真っ直ぐな眼差しに吸い込まれそうになる…
「ごめん…黙って出ていって」
「いいよ、無事戻ってきてくれたし」
「心配かけてごめんね…」
「次からは頼ってよね。てか、さっきから桃太くんがずっとこっち見てるからさ…行ってきたら?」
「あ…うん、ありがとう」
隙だらけだって言われたばっかりのところに少し気まずさもあるけど、待っててくれてる桃ちゃんにも悪いからここは隙を見せないように気をつけながら話せば大丈夫、と自分に言い聞かせながら席を移動した。
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