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ナンパ?それとも…
黒服や派手な女とネオンが彩る夜の歓楽街。
まだまだ夜はこれからと言わんばかりに盛り上がりを見せるこの街を、私はいつも通り終電に間に合わせるべく急いで歩いていた。
今日は本当にギリギリで着替えるまもなく、大好きなゴスロリに近い地雷系ファッションのまま電車に乗って、最寄りの駅で着替えるつもりだ。
こんな格好で帰ったら親に何言われるか分からない…
そもそも残業で遅くなるっていう事になってるし。
とにかく急いで帰らなきゃ。
「ちょっと待ってぇ〜!なぁ、ちょっとでいいから止まってや」
「無理」
「冷たいやん、ちょっとだけ!な?頼むわぁ〜」
こういう時に限って客引きに捕まるから面倒で仕方ない。
着替えていればそこまで声もかけられなかったかもしれないけど、この格好だからか…軽く見られたな。
どの道終電を逃すことは出来ないから、それを振り払うよう歩き続けると、今度は似たような背格好の男の人が私の行く道を塞ぐように立ちはだかった。
「あれ?あすか…?何してんの?」
「おっ、ゆっきーどこいくん?」
「あぁ、雅希に買い出し頼まれた。お前こそ何してんの?」
「見てわかるやろ?お仕事してんねん」
「は?別に客引きなんかしなくてもお客さん来るから良いよ」
「ゆっきー冷たいわぁ~。ねぇ?お姉さん酷いと思わん?」
んなことは、どうでもいいんだよ!
私はさっさと帰りたくて目の前のお兄さんを横切ろうとしたその時、慣れない厚底の靴につまづいて転びそうになった所をお兄さんが支えてくれた。
「あっ、ありがとう…///」
「大丈夫?」
なに、この人…
よくよく見たらめちゃくちゃイケメンじゃんっ!
中性的で何処と無く儚げで可愛すぎるイケメン…
急に恥ずかしくなって、体を離すと自分の顔が真っ赤になっていくのがなんとなく感覚でわかった。
「もしかしてお仕事帰り?」
「あ、はい…そんなところです」
「ご飯は?」
「え?…まだ、です」
「ふぅん。なら今からうちのシェフがパスタ作るらしいから一緒にご飯食べない?」
「は?いや、終電っ…」
このイケメンは突然何を言い出すのかと思えば、初対面の人に相手にいきなりご飯誘うとか正気!?
しかも終電間際のこんな時間に…
これはもしや、新手の客引き!?
万が一にでも着いて行ったらシャンパンとかめっちゃせがまれて、何十万も貢がされるとか!?
んな事になったら私が今まで貯めてきたお金が、夢に見た自由が水の泡になってしまうっ!
「あのっ、無理ですっ!」
「おほっ!雅兄のパスタ、俺も食べたいわぁ~♡めっちゃ美味いねんでっ!一緒に食べよっ?」
「えっ!?ちょっ…」
関西弁の彼は私の断りを無視して、私の腕を完全にホールドしてニヤリと笑った。
これは完全にまずいのでは…!?
「じゃあ俺、買い出し行ってくるから一緒に店戻ってて」
「りょうかいやでぇ」
「えっ!?だから私、終電でっ!!」
「まぁ、たまにはこういうのもええやんっ?なぁ?いこいこ~!」
あれよあれよという間に二人の空気に流された私は、結局終電も撮り溜めてたアニメも諦め、来た道をまた戻る羽目になった。
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