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学校の近くに、私達が“第五公園”と読んでいる大きな公園がある。
その公園はぐるっと周囲を囲むように桜の木が植えられていて、春になると近所の人達がお花見に集まってくるスポットになっているのだ。春休み、私がみのりちゃんとお花見をしたのもこの公園だった。まあ、ほとんど他の友人達も交えてカードゲームをして、お菓子を食べるだけの会で終わっていたが。
「第五公園のさ、滑り台の真後ろにある桜の木、わかる?」
もじもじしながらみのりちゃんは言った。
「あそこの木、なんかの補強か知らないけど、黄色のテープがついてて。……その木の下で好きな人に告白すると、結ばれるっていうんだ」
「あー……なんか、聞いたことあるような気がする」
「桜の木の下で告白って、縁起いいっていうもんね」
「そうそう」
友人達と顔を見合わせる私。あまり信じてはいないが、本気で恋を成就させたいのであれば、そういう縁起を担ぎたいのもわからないことではなかった。
問題は。
「え、誰?みのりちゃんの好きな人って!?」
これである。
なんといってもみのりちゃんはモテる。小学生でありながら、何人もの男子(ついでに女子も)に告白され、そのたびに手ひどく振られている現場を目撃しているのだ。彼女は美人だし、運動神経抜群だ。学校の成績だって悪くない。
それでいて姉御気質、かっこいいお姉さん的な頼れる性格。多くの少年少女達を虜にしてしまうのもわからないではないだろう。だからこそ。
「今までいっぱい告白されたのに全部振ってたのってそういう!?」
「ち、ちげーって!あたしがその、みんなの告白を振ってたのは……お、同い年に興味なかったから!」
「ええええええええええ」
いわく。
みのりちゃんは“同い年と年下はみんな子供っぽく見えて興味が持てない”とずっと感じてきたという。確かに、今そこでカーテン使って“ターザン!”とかやってる馬鹿な男子たちを見ると、あのへんを恋愛対象にするのは無理だろうなと思わなくもないが(そのうちカーテンか金具がちぎれて、先生から大目玉喰らうのが見えているというのに……)。
小さな頃からそうらしい。憧れるのも、好きだと思うのも、年上の男子ばかりであったという。
「でも、なんかコクってくるのみんな同い年か年下ばっかでさあ。……申し訳ないんだけど、そういう対象で見れなかったというか」
「と、いうことは好きな人って年上?」
「うん。……十七歳年上、なんだけど」
「ほわっつ!?」
なんだろう。想像を超えた年齢が出てきた。しかも、十七歳年上。なんだか聞き覚えがあるような気がする。
ようするに、嫌な予感が。
「……まさかのまさかとは思うけど」
恐る恐る私は尋ねた。
「み、みのりちゃんが好きな相手って……小西先生じゃない、よね?」
この反応は、彼女もきっと予想できていたのだろう。気まずそうに視線を逸らして告げたのだった。
「……悪いかよ」
それは、肯定に他ならない。やっちまったなあ、と私は天井を仰ぐことになったのだった。
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