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小西悠馬先生は、現在二十七歳。
まだ教師としては若いが、背がすらっと高くて“絶妙にイイ声”を持つイケメンである。どれくらいイケメンなのかというと、小西先生が担任だとわかった時点で女子たちから黄色い声が上がった程度にはと言っておく。
「最初は、小西先生のこと好きじゃなかったんだ。つか、髪の毛も茶色っぽいし、軽そうな性格だなあって。真面目に先生やってくれんのかなって」
「あーね」
小西先生は母親がイギリス人、父親が日本人だという。髪の毛の色は母親譲りらしい。ただ、顔が父親に似て純日本人顔であるため、髪の毛を染めていると誤解されて昔から苦労したのだそうだ。
同時に、本人がそんなつもりなくても、チャラそう軽そうというイメージがついて回るのだろう。髪の毛は何も、本人が染めたわけではないというのに。
「でも、ちょっと話して気づいたんだ。……先生、みんなのことよく見てるって。ただ見た目がかっこいいだけじゃないんだって」
最初は小西先生に疑念を抱いていたみのりちゃん。彼女の認識が変わるきっかけは、先生がクラスのある男の子に声をかけているのを見たことだったという。
彼は授業中はおろか、休み時間や体育の時間でさえいつも眠そうにしていた。時々あからさまに船をこいでいたり、つっぶして寝ていることもあったという。他の先生はそんな彼を、居眠りするなと怒ることが常だった。
しかし、小西先生だけは違ったのだ。彼が“大好きな体育の時間でさえ眠そうにしているのはおかしい”と考え、本人に丁寧に話を聞いたのである。別件で職員室に呼び出された時、みのりちゃんはたまたまその現場を目撃したそうだ。
「彼、睡眠障害じゃないかって話で。……本人の意思と関係なく、眠くなっちゃう症状ってあるんだって。あたし、知らなかったからびっくりしたよ。本人は、眠くなる=やる気がないと思われるのが嫌で、人に相談できなかったんだってさ。親にもバレて叱られるのが怖かったんだって」
「今は、いろんな障害とか症状があるってわかってきてる時代だもんね。すぐに気づいた小西先生はすごいと思う。障害とかなくても、家庭の事情で夜寝れてないなら心配だし」
「そうそう」
優しくしてもらったのは、自分ではない。
でも、そう言うことができる人なんだとわかった途端、みのりちゃんの胸はときめいてしまったという。
「あたし、小西先生が好き。……初めてなんだ、こんな気持ちになれたの」
彼女は恥ずかしそうに俯いて言った。
「もちろん、あたしはまだ小学生だしさ。生徒と教師で結ばれるなんて無理ってのも知ってるよ。でも……あたしが十八歳になってさ、お互い学校の生徒と教師じゃなくなったら、それまで待ってもらえたら、チャンスはあると思うんだ」
「まあ、それなら倫理観的にも問題ないかもね」
「うん。でも、そのためには……先生に待っていてもらわなきゃいけないし。だから、あたしの気持ちをちゃんと伝えておきたい、って思って。身勝手なのはわかってるし、駄目なら駄目でいいんだ。フラレたら諦めるけど、挑戦する前にやめたくはないというか、なんというか……」
言いたいことはわかった。彼女も子供なりに、先生の立場も考えてはいるらしい。同時に、今すぐ先生と付き合いたいとか、どうにかしたいと思っているわけではないということも。
「わかった」
それなら、と私は頷く。
「どうにかして、先生を公園でのお花見に誘えるようにがんばろ!私たちも応援するよ、ね?」
「うんうん」
「個人的には、お似合いのカップルだと思うし!」
「ほんと!?」
私と友人二人が口を揃えて言うと、みのりちゃんは顔を輝かせてくれたのだった。
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