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コイゴコロ、マイオドル。
「はあ……」
最近、友達のみのりちゃんの様子がおかしい。学校に来て友達とおしゃべりしていてもいつもどこか上の空なのである。そして、授業中は窓の外を見てため息ばかりついている。先生に指されても気づかないなんてことも珍しくない。
何かあったのだろうか。私は他の友人たちと顔を見合わせたのだった。
みのりちゃんは、四年生から連続して同じクラスになった友達である。特に仲良しの一人だったので、五年生でも一緒だと知って嬉しかったものだ。
問題は、進級早々彼女の様子がおかしいということ。窓の外を見てため息ばかり。明らかに、何か気になっている様子なのだが。
「み、みのりちゃん!」
これは、直接訊いた方がいい。私はついに教室にて、意を決して彼女に声をかけたのだった。
「どうしたの、最近様子変だよ?何か心配事でもあるの?」
「え……」
窓の外をぼんやり見つめていたみのりちゃんが振り返った。その拍子に、長い黒髪がふわりと揺れる。
彼女は男勝りな性格だが、実際のところは大層な美少女でもあった。中学生に間違われることもあるくらいプロポーションもいい。相変らず寸胴体型な私とはえらい違いである。
「あ、いや、そのさ……」
彼女は困ったように窓の外をちらほら見た。
今年は桜の開花がかなり遅かった。四月の今でも、多少葉桜になったとはいえまだまだ桜が残っているし、桜を見に行く観光客も少なくないと聞く。
窓の向こうでは、白い花びらが雪のように舞い散っている。青い空に映えて、とても美しい光景だった。
「桜」
「え?」
「さ、桜が……もうすぐ散っちゃうなって。それが残念だと思ったっていうか……」
「みのりちゃん、そんなに桜好きだったっけ?」
私はストレートに疑問を口にした。彼女はまさに、花より団子を地で行く人だ。数年前家族でお花見に行った時は、ずっとお菓子ばっかり食べてたと笑いながら話していたのを覚えている。今年は私もみのりちゃんと一緒に桜を見に行ったが、彼女は“桜餅が食べてえ”と、風情のない言葉ばかり口にしていたような記憶があるのだが。
「桜が好きっていうか、花見がしたいっていうか……」
普段ははきはき喋るみのりちゃんの声が、どんどん小さくなるのを感じていた。
「その、えっと、あの。……。お花見に、行きたいんだよ。……好きな人と」
すきなひと。
その言葉が固まった頭に浸透するまで、しばし時間を要したのだった。
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