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……ま、いっか。昼抜きだったし帰って存分に味見しようと思いつつエスカレーター乗り場に向かう。すると、とある洋菓子ブースの前で見覚えのある人物が目に入った。
……あ、いつもウチの店に来るヒトだ。
そう思った途端、彼が私の方を向いた。一瞬、じっと私の顔を見て「あ!」と言ったあと、笑顔で足早に近づいてきた。
「あの、シャブロンのパティシエさんですよね?」
「あ、はい。いつもお買い上げありがとうございます」
改めてみると背が高く、なかなかのイケメン。茶色の髪が寝起きか?というくらい跳ねまくっているのでそれが逆に親しみやすい雰囲気を醸し出していた。歳は私と同じ20代半ばくらいだろうか。
「もしかして、敵情視察ですか?」
彼が私の持つ大量の紙袋を見てこそっと呟いた。
「あ、いえ、そういうわけでは。ただ単に食べたかっただけです」
「わかります!こういうとこに来ると目移りしちゃいますよね」
そう言って彼がニコリと笑った。魅力的な笑顔……そんな彼の笑顔につられ 私はとんでもないことを口走ってしまった。
「あの、実は買いすぎちゃって、もしよかったら一緒に食べませんか?」
うわ、私、一体何を言っているんだ……お店の常連さんというだけで、名前も知らないヒトなのに。
「え!いいんですか?!食べたい!食べたいです!」
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