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 山岡(とおる)十八歳。大学一年生。地元を出て都会の大学に進学して、最近ようやくホームシックを抜け出したところ。  俺は十八年間、山と川に囲まれたド田舎で育った。数時間に一本の電車、時刻表があってないような路線バス、一家に一台じゃなく、一人一台に与えられる自家用車。遊ぶ場所は海か山か川。決して悪くはないけど、やっぱりドラマやバラエティを見る度、都会の便利でハイセンスな生活に憧れたものだ。地元では高校生になると電車に乗って離れた街まで遊びに行く奴もいたが、そういうのは大抵カップルだ。野球部の練習が忙しくて恋をする暇もなかった俺はそんな奴らを指を咥えて見ているだけでしかなく、彼女が一度もできることなく高校三年までいった。だから大学は必ず都会に出て、彼女を作ると決めた。可愛い彼女と都会の街でデートをするのが夢だった。  しかし加賀美の指摘からすると、どうやら今の俺では彼女を作ることは難しいらしい。俺のセンスは彼氏にするには恥ずかしいのだと。 「センスってどうやったら良ぅなる?」 「っつーか、まずキャラもんはやめよ?」 「でもウニクロとかでもキャラもんコラボしとるじゃろ」 「だからワンポイントとか限定ものとかはいいと思うのよ。親子で着るとかさ。でも徹のはソレ、なんかどっかの公式のガチのやつで、しかも女の子用じゃねぇの?」 「ユニセックスじゃで。じゃねぇとサイズねーが」 「ああ、そう、そうなのね。まあね、多様性の時代だもんね」  加賀美は額を覆って、また溜息をついた。多様性という言葉で無理やり自分を納得させているようだった。  ――加賀美の言うことも、本当は分からなくはない。「らしさ」というのが近年タブー視されつつあるけど、やっぱり長年染み付いた固定観念というのは簡単に覆せるものじゃない。俺は本当に、男が可愛いものを持っていても、着ていても、自分が好きならいいと思っている。逆もしかりで女がごついものを持っていてもいいと思う。中には「それでいいんじゃない」と言ってくれる人もいるが、やはり今までの経験からして「徹くんがそんなの持ってるの変」とか「男の子なのに」と言われることが多かった。だから加賀美の言いたいことは、分かる。  だからといって嘘はつきたくないのだ。可愛いものは可愛い。好きなものは好き。別に万人にそれを理解してもらおうとは思わない。否定するなとも言わない。ただ、こんな俺を「分かるよ」って言ってくれる人に出会いたい。素のままの自分を好きになってくれる人と付き合いたいと思うのだ。だからどんなに加賀美にやめろと言われても俺はやめるつもりはない。と、言うのを大真面目に話したら、それまで呆れ顔だった加賀美が途端に姿勢を正した。
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