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「あっ、すんませ……」
俺より頭一つ分背が低いその人は、黒のパンツと黒のシャツを着た細身の男の人だった。全身が黒いせいか、シャツの中の白いTシャツとブロンドの髪がすごく映えて見えた。モデルか芸能人なみのオーラを放っていて、思わず見入ってしまうほどだ。その人は俺の顔ではなく俺のTシャツに描かれている犬のキャラクターをじっと見つめ、
「ポメポメポリン」
と、一言。
「それ、シャンリオのポメポメポリンだよね?」
「えっ、あ、はあ」
「可愛いよね。俺、けっこう好き」
瞬間、俺の体に電気が走った。俺の好きなものを肯定してくれる人がいるのかと新鮮に驚いたのだ。
「お、俺もです……」
やっとの思いでそれだけ口にすると、その人はニコ、と笑って立ち去った。ドキッとするほど整った顔で、韓流ドラマに出てきそうな人だった。加賀美が興奮気味に言う。
「今の、寺島さんじゃん!」
「てらしま?」
「知らねぇの? けっこう有名なオンスタグラマー」
「なにやっとる人?」
加賀美は自分のスマホを取り出し、オンスタの画面を俺に向けた。
なにやらオシャレな服やらアクセサリーの写真をたくさん投稿している。
「それこそファッション系のアカウントで、日常のオシャレコーディネートみたいなのをアップしてる。ほとんど首から下しか写ってないけど、たまにガラスに顔が写り込んでる時があって、うちの大学の四年の寺島貴也じゃねーのって噂があんの」
プロフィール蘭に本名も大学名も明記しているわけじゃない。だが投稿をザッと見せてもらうと、確かになんだか見覚えのある背景ではある。
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