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「それでは最後のお料理をお持ちしてもよろしいでしょうか」
「もちろんだとも。私には少なくともそれがどんな料理なのかぐらいはわかるぞ! 当ててやろうか!」
ヒントすら与えてもらえない意趣返しだとばかりに、玉男は叫んだ。
「テット・ド・ヴォー! 脳みそだ! 肉も内臓も食ったからには、最後に残るのは脳みそのはず! 煮込みにしたのか! それともフリットか! さぁ、持って来てみろ!」
はっはっはと高笑いする玉男の耳に、カラカラと料理を載せたワゴンが運ばれてくる音が聞こえてくる。
そしてそれは、玉男のテーブルの目の前で止まった。
「お待たせいたしました」
「さぁよこせ! それが何の肉なのか、今度こそ当ててみせよう!」
「……いいえ、その必要はございません」
闇の中に響いた味川の声に、心なしか含み笑いが感じられたような気がした。
「こちらが本日最後のお料理であり、豊村様がこれまで召し上がって来られた食材の答えでございます」
突然部屋中に白い光が満ち溢れ、玉男はあまりの眩しさに目を細めた。そして――
「ひ……」
照明に浮かび上がった目の前の料理をひと目見た瞬間、泡を吹いて椅子ごと卒倒してしまった。
「……どうやらお気に召されなかったようで」
白目を剥いて痙攣を起こす玉男を冷ややかな目で見下ろしながら、味川はやれやれとため息を漏らした。
「脳みそのフレッシュ・プディング。新鮮な脳みそを生のまま、シェフ特製のソースでいただく至高の逸品だったのですが。味わっていただけず、残念です」
ワゴンの上に載っていたのは、むき出しになった頭部からぬらぬらと光る脳みそを覗かせた、佳代の生首だった。
虚空を見つめる佳代の目は、自身をこんな目に追いやった玉男への恨みを訴えるかのようにカッと大きく見開かれていた。
<了>
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