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死体遺棄
おじいさんはやはり亡くなっていた。
警官二人が家の中に入ると、部屋には石灰が撒かれ消臭剤が置かれ目張りがされて、臭いが漏れないようにしてあったそうだ。
しかし梅雨から夏にかけてのこの時期、まったく役には立たなかった。
何枚も布団を掛けられた遺体はかなり腐敗が進んでおり、蛆やハエが大量に発生していた。既に死因は特定できない状態だったらしい。
また、勝手に外に出ていかないように括り付けたのか、床の間の柱に結ばれたロープの片端が遺体の傍にあったという。
やっぱり……。おじいさんが徘徊していると僕があの男に話したから、おじいさんは縛られていた。僕は良心の呵責に苛まれた。
亡くなった父親の遺体を放置していたとして、男はその場で死体遺棄罪で逮捕された。
「布団で親父が死んでいたが、どうしたらいいかわからずそのままにしていた」と供述しているそうだが、無職の長男は父親の年金で暮らしていたため、父親を生きていることにしてそのまま年金を受給しようとした詐欺罪、それに傷害罪についても調べられるという。
こうした経緯は、僕の話を聞きたいと二人の刑事さんが訪ねて来て教えてくれた。
僕はバイト明けに店の裏の部屋で、オーナー立ち会いの元話を聞かれた。
「つまり、松村幸三さんは亡くなる前、深夜腹を空かせてこの店に来てたんだね」
刑事さんに聞かれて、僕は「はい」と答える。
「うーん……」
質問した年配の刑事さんとは違う、もう一人の若い刑事さんが首を傾げる。
「それはありえないんだよね」
そう年配の刑事さんが言う。
「ありえないって?」
意味がわからなかった。
「長男の供述では、松村さんは五月の連休明けには亡くなっていたんだ。腐敗の状況からもそれは確認されている。だから、梅雨入り前や、梅雨入り後に松村さんがここに来るわけないんだよ」
「そ、そんな……」
僕は驚く。
「で、でも確かにおじいさんは来ました。本間さんも見てます。それに、本間さんが、松村さんの迷子札を拾ったんです!」
「あのさ……」
隣で黙っていたオーナーが口を挟む。
「西尾君、本間さんがお金を立て替えたとか、さっきから言ってるけど、その本間さんって誰? お客さん?」
「えっ」
僕は驚いて一瞬何も言えなかった。
「オーナー、何言ってるんですか! 本間さんですよ。ほら、夜勤専門の主婦のパートさん!」
「西尾君、うちはフランチャイズの弱小コンビニだよ。夜はワンオペにしてるんだ。君のシフトにはほかに誰も入れてないよ」
オーナーは少し申し訳なさそうに言う。
「そ、それじゃ……。あれは、誰?」
僕は茫然として、何も考えられなくなる。
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