嫌な予感

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嫌な予感

 次の週、昼のシフトで店に出ていると、「あら、お兄ちゃん、ここのバイトだったのね」と声をかけられた。レジにカゴを置いたお客さんは、松村家の隣の奥さんだった。 「あ、こんにちは」  挨拶をし、会計しながら僕達は立ち話をした。 「あのあと、松村のおじいちゃんはお店に来た?」と奥さん。 「いいえ」 「そう……」  何か気になってる様子だった。 「何かありましたか?」と僕が聞くと、「いえね、大したことではないのよ」と奥さんは話し出す。  昨日、町内会の回覧板を回すのに奥さんが松村家を訪問したが、男は出て来ず、「ドアの新聞受けに差し込んでくれ」と言われたそうだ。 「それでね、言われた通りにしたのよ」  新聞受けに回覧板を差し込むと、そこから強烈な悪臭が漂い、大量のハエが飛び出して来た。 「臭いって、生ゴミが原因ですかね」  僕は先週、松村家の長男が消臭剤を買い込む姿を目撃した話をした。 「生ゴミなのかしら。なんだか腐ったチーズのような強烈な臭いで、あとに残って……」  僕らは顔を見合わせた。嫌な予感がした。  その時、入店音が鳴り、警官が店に入って来た。  ニセ電話詐欺に騙され人がコンビニのATMからお金を振り込むのを防止するため、日に何度か近所の交番の警官が立ち寄ることになっていた。  顔見知りの警官だったので、僕は思わず声をかけた。 「実は近所のおじいさんが──」  夜、「お腹が空いた」とパジャマで店に来ること、家を訪ねた時の長男の対応と消臭剤を大量に買っていた話、それに隣の奥さんが回覧板の件を話した。 「そうか、心配だね。わかった。すぐに家を訪問してみるよ」  警官はそう引き受けてくれた。
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