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牛乳
二日後、本間さんと夜シフトが一緒だったので、松村家訪問の報告をした。
「そう。わざわざ行ってくれてありがとうね」
本間さんはそう労ってくれたが、結局何も解決はしていなかった。
梅雨に入るとおじいさんが店に来る回数は減ったが、それでも雨が止んだ夜はパジャマ姿でふらふらと現れて、あんパンと牛乳を買って行った。
そんなある朝のことだ。その日も前夜、おじいさんは訪れていた。
矢崎先輩が急用で遅れるというので、その間の勤務延長をオーナーに頼まれ、僕は夜勤明けにそのまま新人の子と二人で店に立っていた。
ちょうど新人の子に裏の仕事をやってもらっていた時のことだ。
入店音と共に自動ドアが開き、入って来た男を見て僕は声を上げそうになった。松村さんの長男だった。
男は僕に気付く様子もなく、入り口横のスポーツ新聞を取り、おにぎりと牛乳パックを抱えてレジに来た。
「あの……」
僕の声に男は僕を見て、すぐ思い出したようだ。
「牛乳なら、昨夜おじいさんが買って行きましたよ」
僕が親切のつもりでそう言うと、男の顔がみるみる赤黒くなる。
「だから、てめえ、なに出鱈目言ってんだあ! 親父は、親父は──」と言って、男はぷるぷる震え僕に殴りかかろうとする。
しかしその時入店音が鳴り新しい客が入ってきたのと、大声に気付いた新人が顔を覗かせたので、我に返った男はレジに商品を残したまま足早に店を出て行った。
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