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夏
なんとなく引っかかりながら何もできぬまま、梅雨が明けた。
「あのおじいさん、最近来ませんね」
本間さんと二人、レジで手持ち無沙汰にしていた深夜、僕は呟いた。
「そうね……」
本間さんが他の人とシフトの時も、見かけないという。
今年は猛暑で作物が育たないとか、熱中症の警戒が必要とか言われている夏だった。
本間さんが何度目かに追加した千円札は、引き出しで使われないままだ。
「家でお腹いっぱい食べられるようになってたらいいけどね」
本間さんが言う。
(それならいいけど。でも、あの息子じゃ……)
僕は男が真っ赤になって怒る様子を思い浮かべる。
「徘徊しないよう、家に閉じ込められていたら可哀想ね」
本間さんの言葉に、僕はどきっとする。
僕があんなこと言ったもんだから、外に出ないように閉じ込められているんじゃないか……。
おじいさんが、冷房のない締め切った部屋で、飲み物も食べ物も与えられず苦しんでいる様子が目に浮かび心配になった。
翌日は土曜日で大学もバイトも休みだった。僕は昼前に近くのスーパーに食料の買い出しに向かった。
「あれ?」
少し先を歩く男の姿に気付いた。おじいさんの長男だ。
男は生気なく歩いていた。すれ違う人達は男を見て、嫌そうな顔をしたり鼻をつまむ仕草をする。臭うのだ。少し遅れて歩く僕にも、嫌な臭いが漂ってくる。
なんとなく気になって付いて行くと、男はホームセンターに入った。僕もあとに続く。
男はカゴを手に取ると、芳香剤や消臭剤が置かれたコーナーに真っすぐ行き、たくさんの商品の中から『超強力消臭剤』とか『業務用消臭剤』といった効果のありそうな商品を次々カゴに入れた。
ゴミ屋敷の匂い対策? だったらゴミを捨てたらいいのにと僕は内心呆れて見ていた。
男は次に園芸コーナーに行き、そこで石灰の袋をカゴに入れてからレジへ向かった。
そこまで見届けると、僕は男に気付かれる前に店を出た。
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