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私はパソコンの画面を眺めながら、落ちて来た前髪を耳にかけた。
「ふぅ」
会社で請け負った暗殺の数々。ターゲットのリストの中には、ちらほらと知った名前が見受けられる。
中でも一等愛おしく感じる名前を、指先で画面越しになぞった。
時々思い出す。
2年前、彼を手にかけた日のことを。
彼が、スパイだと知ったあの日を。
『私があなたを消す理由を、あなたは自分でよく分かっているはずよね』
拳銃を彼の額に当てながらそう訊いた自分の声が、未だに耳にこびりついている。
『……分かっている。撃てばいい。できるなら俺も、礼……最愛の君に、殺してほしい』
殴られて体の所々に血が滲んだ状態で椅子に後ろ手を縛られていながら、愛おしそうに私を見ていた彼の眼差しが脳裏に焼き付いている。
ずるいと思った。私だってどうせならあなたに……。
あまり時間をかけすぎると、私以外の人に彼を消されてしまう。
震えそうになる指に力を入れ、トリガーに指をかけた。
それが私から彼への最後の贈り物になった。
最期の瞬間、愛していたのは本心からだったと、彼の瞳と口が語った。
撃った反動で彼が椅子ごと後ろに倒れていく。
床に血溜まりが広がっていく様が、やけにゆっくりに思えた。
さっきまで私に笑いかけてくれた人は、もう二度と動かない。
できるなら、今も一緒に生きていたかった。
朝に弱い私を仕方なさそうに見下ろしながら起こしてほしかった。
お酒に酔った私が怒りをぶつけても、笑って聞き流してくれる彼の優しさが気に入っていた。
甘い声で私の名前を呼んでほしかった。
もっとあなたの名前を呼びたかった。
こんなリストではないところで、もっとあなたの名前を見たかった。
こんな記憶を思い出すのではなく、もっと現実のあなたと一緒に……。
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