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「何を言い出すのですか? いったい何を根拠に……」
「維偉斗さん、あなたが先ほど披露した推理と同じですよ。人名を利用したダイイングメッセージです」
明田山探偵は説明のために、ポケットから一枚の紙きれを取り出す。
何かのレシートだったが、表面の記載に意味はない。裏をメモ用紙として使うのだ。
そこに『あしたあなたがあいたいと』と書きながら……。
「ここでも何度も話題になった、あの本のタイトルですね。そこから『あなた』の三文字、つまり『あ』と『な』と『た』を消すと……」
聞いていた者たちは一瞬、中央の「あなた」三文字が消されると思っただろう。
しかし実際に明田山探偵がやってみせたのは、全ての「あ」と「な」と「た」の取り消し。つまり一文字目や三文字目などにも、バツ印をつけていく。
あしたあなたがあいたいと
↓
X し X X X X が X い X いと
「……残るのは『 し が い いと』の五文字。ほら、維偉斗さんのフルネームが浮かび上がってきました。これこそが、光蔵さんの伝えたかったダイイングメッセージですよ」
「そんなの、こじつけだ! 証拠だって、何もないじゃないか!」
激昂する維偉斗とは対照的に、羽美が感心したような声を上げる。
「志賀光蔵さんにしてみれば、確かに『明日あなたが会いたいと』は『あしたあなたがあいたいと』の十二音。頭の中でも十二文字の平仮名で並んでいたでしょうし、最後にそれを利用して伝言を残すのは、いかにもですね……」
真智恵は血が繋がっておらず、被害者の親族は維偉斗のみ。資産家だった志賀光蔵の遺産は相当な額になると考えられるから、犯行の動機もその関連だろう。
もしかしたら、ギャンブルか何かで、維偉斗には多額の借金があったかもしれないが……。
その辺りは当てずっぽうになってしまうので、明田山探偵は敢えて口にしなかった。
また維偉斗が言っていた「証拠は何もない」に対しても、証拠集めは自分の領分ではなく、奈土力警部たち警察の仕事。明田山探偵は、そのように割り切っていた。
そして実際、それから数日もしないうちに……。
明田山探偵の推理を裏付ける証拠が警察によって発見されて、志賀維偉斗の逮捕に至るのだった。
(「明日あなたが会いたいと」完)
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