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「あそこでちょっと休もう」
正人の提案に、もちろん賛同。使わなかった電車賃で、ミニペットボトルのサイダーを3本買った。それを片手に、僕らは河川敷へと降りた。
行きがけの電車からは全く見えなかった。電車は国道の横を通っていて、ここから離れた位置にあり、窓からはビルや店舗ばかりが見えた。
電車からは見えなかった桜が、歩いていたから見つけられた。
河川敷へと続く階段の端に腰かけ、僕らはサイダーを飲んだ。炭酸の程よい刺激が喉を潤してくれる。サイダーが全身に力を与えてくれるのが分かった。
こんなに美味しいサイダー、飲んだことない。
正人も誠司も、きっと同じように感じたはず。その証拠に、サイダーを飲んだ次の瞬間、えも言われぬ吐息を吐き出していた。お父さんがビールを飲んだ後みたいに。
僕らはサイダーを飲みながら、目の前の桜を眺めた。可憐で繊細。でも力強く地に根を張って、春を謳歌するべく、自らの力を爆発させている。
僕らは何も話さなかった。話さなくてよかった。ただ桜を見るだけで、この経験が救われる気がした。
僕はペットボトルを目の前に掲げ、ボトル越しに桜を見た。サイダーは桃色に変化し、一瞬にして違う飲み物になったような気がした。
桜サイダー。なんか、元気、出て来た。
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