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 そして冷静を取り戻したペペだったが、それ故ある言葉に引っかかりを感じた。 「もう残ってないとはどういう意味だ?」 「言葉通りでございます」  すると魔族は立ち上がった。 「もうあなた様の手下は誰一人として残っていません」 「誰一人……。まさか! ベルゼール、貴様もか……?」  その言葉にマントを翻し、払うように手を出すベルゼール。 「僭越ながら魔王ヌバラディール・ペペ様。ただ今を持ちまして(わたくし)、ベルゼール・ブルブはあなた様の手下を止め、勇者クラガン・ズィール様にお仕えいたします」  これで最後と言うようにベルゼールは深く頭を下げた。  一方でその姿を見つめながら言葉を失うペペ。 「フゥ。これで晴れてクラガン様にお仕えできる」  顔を上げたベルゼールは清々しい表情でそう呟き、ペペは未だ唖然としていた。 「最後だから言うが、正直あんたの手下はつまらなかったぜ。じゃあなぺぺ」  ベルゼールは最後にその言葉を残すとくるり振り返り、真っすぐ魔王の間を出て行った。その何の未練も無いと語る後姿を、ペペは王座に座りながら視界に映るただの映像の一部として見送る。  静まり返った魔王の間。そこに一人ぽつりと残されたぺぺ。その姿は事情を知る者からすれば哀愁漂うものだった。  そしてドアが閉まる音が寂しく響き暫くしてからペペは我に返った。 「あれ? ――あっ、そっか……」  その小さな声は静かな魔王の間へあっという間に呑み込まれ消えてゆく。それはいつもと変わらぬ静寂のはずだが――やはり空虚で切ない。  そしてまだ混乱の渦に巻き込まれてた頭と心をそのままに、王座から立ち上がったペペはドアへ向けレッドカーペットを歩き始める。その背中は魔王とは思えぬ程に小さく哀愁の漂う姿だった。
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