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「(やっぱ本物じゃん。こいつが勇者クラガン・ズィールじゃん。えぇー。普通こんなの選ぶ? あの聖剣、人を見る目なさすぎでしょ。僕でももうちょい良い人選べるよ? 何を思ってこんなの勇者にしようとしたんだよ。ランダムなん? クジとか気分で適当に選んでるん?)」  だがそんなことを内心で考えていることなど一切悟られない程に表情から立ち振る舞いに至るまで彼は魔王として完璧だった。 「この俺様が勇者クラガン・ズィール様だ」 「(しかも自分に様付けるタイプだ。僕でも自分には様付けないのに。百歩譲って一人称に付けるのは分かるけど自分の名前にもって……)」 「そういうお前は……」 「如何にも。我輩こそがこの世界の王となる魔王ヌバラディール・ペペだ」  ペペは自分の事を知らないと言われることを恐れ、そう食い気味に名乗った。自信と悪意に満ちた聞く者の希望を奪い恐怖に陥れるような声と口調で。それは自分でも完璧だと思える程の出来だったが、王の間にはスベったような沈黙が流れる。 「あぁ……魔王様! どうか早くこの世界を征服して下さい」  するとその沈黙を破り後ろで蹲るように小さくなっていたみすぼらしい格好の男性が、ペペへ縋るように近づいてきた。  そして両膝は付けたまま神へ祈るように両手を組む。 「この国をあの者に奪われてからは民は奴隷のように扱われております。どうか世界を征服し私達を解放してください」 「(えぇ~。何この展開。僕、魔王ぞ? 普通は倒すべき存在ぞ? その僕に世界を征服してくださいって……)」 「おいおい。この俺様に文句あんのか? はい、お前死刑な。連れてけ」  クラガンの払う手と言葉で二人の兵士はその男性を引きずるように王の間から連れ出した。 「もうこの国は俺様のモノ。元国王とかいらねーんだわ」  死刑宣告ですら適当でしかも笑みを浮かべるクラガンは傍の踊り子から果物をひとつ食べさせてもらうとペペの方へ視線を戻した。
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