何の奇跡だよ

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何の奇跡だよ

気づくと俺の横に小さな男の子が立っている。 「それ、僕のボール。ママが捨てたの。 新しいボール買ったから、それはいらないの。 でも、そのボール、僕の宝物なの。誕生日に、 パパからもらった宝物なの。僕ね、ママに内緒でボール拾って隠したの。僕と同じくらいこの ボールを宝物にしてくれる人が、見つけますようにって、おまじないかけたの。良かった。 おじさんなら大丈夫。だよね?じゃあね。」 そう言うと、男の子は桜並木を走って消えた。 ‥ ‥ ‥ 「思い出した。これ、俺のだ。思い出した。 あの時ゴミ出し場から拾って、近くの公園に、 ああ。ちょうど桜が散り終わった頃で、 積もった花びらを、あちこちからかき集めて、 ボールを隠したんだ。それから、おまじない。 父親から教わったおまじないだ。 散る桜の花びらが、地面に落ちる前にキャッチ できたら、願い事がひとつ叶うってやつ。 俺はキャッチした花びらをボールにのせた。 自分と同じくらい宝物にしてくれる人が、 見つけてくれますように、と。」 ‥ ‥ ‥ 俺は手にしたボールをエコバッグに入れて、 出勤ラッシュの電車に乗った。 「何の奇跡だよ。 来月の母さんの一周忌には、父さんに連絡して みようかな。」 車窓の外にちらりと見えた桜の木に、俺は 「ありがとう」 と呟いた。
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