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唐突な春
それは数年前の春のことだった。
「あなたの病気は、現代の医学では治せません。」
夫である恭一に付き添われた永子に、医師はそう告げた。
結婚して二年、夫婦二人きりの生活も満喫したし、そろそろ新しい家族を迎えようか。二人でそう話していた矢先のことだった。二人で受けた人間ドックで、永子だけ再検査となっていた。
「ですが、進行を遅らせることはできます。」
医師の言葉と、まるで詰め寄るように医師に質問する恭一の声を、どこか遠くに聞きながら、永子は窓の外で風に散っている桜をぼんやり見ていた。
ーー人生のサクラチル。
永子は声には出さずに、力なく笑った。
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