マッチ売りの少年

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「やだ、お母さん、行かないで!」  病院に少年の声が響きわたる。白いベッドに横たわる母親は、痩せて黒い隈ができている。 「アルベール……」 「僕もそっちに行く!」 「……だめ」 「なんで!」  少年はぼろぼろと涙を流している。その小さな頭に、母親は手を乗せる。 「生きて」  かすれた声に乗せられた最期の願い。 「生きて、アルベール」  受け取った少年は、その言葉の真意のわからぬままに頷いた。  今、その言葉を思い出した。  お母さんの言葉まで、なかったことにするのは嫌だ!  少年は手を引っ込めた。母親の微笑む顔が、暗い夜の街の闇に消えていく。  マッチの火が、消えた。白い煙がゆらゆらと空へのぼっていく。  呆然と立ち尽くすアルベール。マッチ売りの姿をしながら声かけをしないで突っ立っている少年を、通行人は不思議そうにちらっと見てはまた歩いていく。
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