マッチ売りの少年

4/8
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「アルベール、どうしたの? 泣かないでいいのよ」  アルベールは泣いていた。母親と再会できた嬉しさと衝撃で、涙が勝手にあふれてくるのだ。 「どうしたの?」  アルベールはコートの袖で涙を拭うと、笑顔を作る。 「なんでもない」  大好きな母親の前だ。弱いところを見せるわけにはいかない。 「そう?」  母親はケーキを一切れ差し出す。食べるとあまりの甘さに、少年はとろとろに溶けてしまいそうだった。  夢中で食べ、綺麗にケーキを食べ終わった頃に母親はアルベールに声をかけた。 「元気?」 「うん、まぁ……」 「あら、どうしたの? このアザ……ぶつけちゃったのかしら?」  母がアルベールの頬に手を触れる。触れられたところがずきりと痛む。 「……」  真実を告げるか迷って、少年は口を開く。 「お父さんに、殴られた」 「あら、そうだったの……」  彼女は驚いて、そして氷を持ってくる。頬に当てると、あの街中の雪の冷たさが蘇ってきた。  火が消えかかっている。 「お母さん!」  叫んで、もう一本のマッチを掴む。 「こっちに来てもいいのよ」  ゆらめくオレンジの幻想の中、母親は微笑んでこちらを見ている。 「こっちに来れば、痛みも感じないし、ずっと幸せな毎日を送れる」 「待って!」 「アルベール」  差し伸ばされた手は綺麗で、かつて握った母親のあの手そのものだった。  その手を取ろうと手を伸ばす。その瞬間、記憶に刻まれた光景が思い浮かんで、彼の動きが止まった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!