マッチ売りの少年

　どうやって、生きたらいい？

　疑問は彼の頭を支配していく。

　どうせ帰っても酔っ払った父親に殴られるだけだ。先の見えぬ生活の中で、どうやって生きる希望を持てと言うのだろう？

　アイデアは浮かばない。お腹が鳴り、少年は自棄になって、もういっそのこと歌ってしまおう！　と考えた。

　母親が生きていた頃、この街の合唱団に入るために練習をしていたのだ。赤いベレー帽がシンボルの、ベリー合唱団。音楽の先生だった母親のピアノの演奏に合わせて歌うのだ。残念ながら、入団試験を受ける前に練習する場がなくなってしまったけれど。

　合唱団に入りたいという夢は、少年の昔からの夢だった。母と一緒に、何度も通った音楽ホール。目に焼きついたベリーのような鮮やかな色。その色と空気感を、彼はまだ、覚えていた。

　目を閉じる。現実を見たくないのなら、視界から消し去ってしまえばいいのだ。

　どうせ誰も聞いていない。暗闇の中、革靴が雪を潰す足音に紛れて少年は歌い始める。