僕が街から消えたわけ

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 意識を取り戻したとき、いくぶん時間が経過していたようだ。煙は晴れていたが、平和だった街は変わり果てていた。道路は隆起しところどころ裂けたようにひび割れ、爆風で壁面をはがすように破壊された建物の瓦礫や折れた鉄骨が散乱し、燃えくすぶる車の炎が重苦しく黒煙を吐き出していた。血まみれの人々がよろよろと歩き回り、髪や皮膚が焼けた匂いが鼻をついた。それは文字通り地獄絵図だった。  そして僕は行き交う人々の異様な姿に息を呑んだ。彼らは悪臭を放ち、腐敗してただれたような緑色の肌に変貌していた。その瞳は虚ろながら血が涙のように滲んでいたし、口元からは牙を生やし、だらんとしながら突き出した手には爪が鋭く伸びている。  どうやら人々は、北の独裁国家がばら撒いた細菌兵器によってゾンビの群れにされてしまっていたのだ。  やれやれだった。    街を徘徊する恐ろしい形相のゾンビたち。  もちろん悲鳴をあげて逃げ惑う、比較的無事な人たちもそれなりにいはした。でも彼らにしても、そこかしこでゾンビたちに、じりじり追われていき、ついにはゾンビの集団に囲まれ、結局つかまってむき出した牙で噛みつかれ地面に倒れた。  彼らもまたやがて、時を経て、むくむくとゾンビへと変容して起き上がるのだろう。    そんな光景を目の当たりにしても僕は助けに駆けつけることも逃げることも敵わなかった。  どうしてか?  僕は動けなかったからだ。  爆発の瞬間、どうやら歩道橋かどこかから吹き飛んできた標識の金属板が僕の足に突き刺さったみたいだ。  それは、鋭利な金属製のフレームでできており、僕の両足を切断するほどの威力があった。  それで僕は両腿の付け根のところから上だけの人間になってしまった。そのまま、激痛と出血で意識を失い、倒れたまま放置されていたのだと思う。
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