僕が街から消えたわけ

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 僕は地面に座り込み、いや座っているのか立っているのかは客観的な判断を仰いだほうがいいのかもしれないが、動かなかった。  無理に動こうとも思わなかった。  ただぼんやりと目前に巻き起こる悲劇的な光景に呆然としていた。    でもなぜか、ゾンビは誰も僕に噛みつこうなんてしてこなかった。  不思議といえば、そもそも、両足がちぎれてしまったような大怪我で、どうして僕は痛みも感じず平然としていられるんだろう。  かなりの出血の跡というか、まわりの地面は血まみれだ。  しばらくぼんやりと麻痺した頭で考え。そして、答えにたどりついた。    なぜならきっと僕もゾンビだからだ。だからゾンビは僕を餌として認識していないんだ。おそらく僕はもう人間じゃなくなっているんだ。    でもまだ、思考には少し人間の頃の自意識が残っていると思う。はっきりとはしないが自我らしき感情がある気がする。  やがて失われ消えてしまうだろう僕という人間の記憶だ。  まだ微かに残る人間の意識は、自我を保ち、以前の記憶を消去しようとするゾンビの本能に抵抗していた。
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