ゴミから始まる妄想ストーリー【玄関マット】

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【玄関マット】 一瞬、バックミラーに何かが映った気がした。 ほんの一瞬。 それっきり何も見えない。 気のせいだろうか? 後ろばかり見ているわけにもいかない。 僕は前方に意識を集中させ、家に向かって車を走らせた。 二人そろって休日の日曜。 そんな日の昼食は僕の担当だ。 スーパーでの買い出しからの帰り道、もう家に着くというタイミングで、ハナちゃんからLINEが来た。 『車の上に干しといた玄関マット、どこに置いた?』 そこでハッとする。 気のせいだと思っていたが、一瞬見えたあれが玄関マットだったかもしれない。 とりあえず車をガレージに入れ、車のボンネットを確認するが、そこには何もなかった。 荷物を下ろしながらハナちゃんに尋ねる。 「玄関マット、見つかった?」 「ううん。天気がいいから車のボンネットに載せて天日干ししといたんだけど、コウちゃんもしかしてそのまま買い物行っちゃった?」 「全然見てなかったわ…ごめん。さっき車の上見たら何もなかったからどこかに落としてきちゃったのかもしれない。」 「ううん、私も干してること言わなかったから。」 それ以上は何も言わないが、落胆している様子が伺える。 玄関マットはハナちゃんのお気に入りで、ずいぶん長いこと大切に使っていたものだ。 無くしたからといってそのままにはしておけない。 「とりあえず通った道をもう一回見てくるよ。」 「うん、ありがと。じゃあ私、代わりにご飯作っとく。今日のメニューは何?」 「キャベツとベーコンのチャーハンと、わかめ入り中華スープの予定だったんだけど、お願いしていい?」 「任せといて。コウちゃんは玄関マット、よろしくね。」 一度往復した道を、再度車で玄関マットを探しながら走る。 全然気にしていなかったから、どの辺りで落としたのか見当もつかない。 小さなものではないのですぐ見つかると思ったが、結局見つけられないままスーパーに着いてしまった。 そのまま駐車場を回り、帰路に着く。 もう一度、できる限り慎重に探しながら車を走らせる。 結局、家に着くまで玄関マットを見つけることはできなかった。 どこに行ってしまったんだろう?風で飛ばされた?誰かに拾われた?川に落ちて流された?どこかの溝に落ちた? 考えながら玄関を開ける。 「おかえりー。」 キッチンからハナちゃんの声。 「ただいま。」 キッチンに入り、見つけられなかったことを伝える。 「そっか、なかったか…。まあ、とりあえず、お昼食べよ。もう出来てるから。」 「うん、ごめんね。」 「ううん、私が車に乗せといたの言ってなかったのも悪いし、むしろ探しにいってくれてありがと。無いなら無いでしょうがないよ。」 「でもあれ、お気に入りだったでしょ?」 「そうなんだけどさ、探して見つからなかったら、それはそれでしょうがないかなって思って。無くなっちゃったのは不思議だけど、きっとあのマットと私たちはそういう縁だったんだろうなって。」 そういうと、いたずらっぽく笑いながら続けた。 「実は私ね、もし見つからなかったら次はどんな玄関マットにしようか考えながら料理してたんだよ。」 彼女はそう言ってペロリと舌を出した。 「お昼食べ終わったら、もう一回二人で探してみよ!それで、見つからなかったらしょうがないよ。そしたら、そのまま新しい玄関マット探しに行こう!」 なんていいコなんだろうと、改めて思った。 こんな素敵なコが奥さんで、僕はとてつもない幸せ者だ。 ともすると落ち込んだり、ケンカになったりするようなこんな時でも、いつだってハナちゃんはポジティブだ。 だから僕もハナちゃんのパワーでいつだってポジティブでいられる。 二人でいればいつだって幸せだ。 二人で食卓を囲む。 出てきた料理は、キャベツとわかめのチャーハンと、ベーコンの中華スープ。 「あれ?メニュー変えた?」 「え?コウちゃんの言った通り作ったけど?」 二人で答え合わせしながら大爆笑。 「それにしてもこのチャーハン、めちゃくちゃ緑色だね。」 いつまでも笑いが収まらないままに二人で食べたお昼ご飯は、見た目はイマイチだったけど最高に美味しかった。
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