【出会い】

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【出会い】

その女と出会ったのは、両親を喪った夜のことだった。 優しくて、それでいて明るい父。 朗らかでおしとやかな母。 二人は誰がどこから見ても素晴らしい夫婦だった。 子どもの少ない小さな村だったから、私が生まれた時には大いに期待が寄せられた。 でも、私は本当にあの父と母から生まれたのか、と思うくらい無愛想で、無表情な子どもだった。 村の人は段々と私に対する関心を失っていった。 でも、父と母だけは私を可愛がってくれた。 父はよく頭を撫でて笑いかけてくれた。 母は寝る時いつも絵本を読んで聞かせてくれた。 私は、父と母にだけは少しだけ笑顔を見せたりするようになった。 表情を作るのが苦手な私の精一杯の笑顔を、両親は可愛いといつも言ってくれた。 そして、私の13歳の誕生日。 私は遠く離れた学校から家に帰る所だった。 両親がどんなプレゼントを用意してくれているのか、その日は少し楽しみだった。 ただいま、と言っても、いつものように声が帰ってこない。 靴を脱いで、家に上がる。 少しだけ、何故か血の匂いが鼻を掠めた気がした。 プレゼントは無かった。 ケーキも、蝋燭も。 そして、父の温もりも。 母の柔らかな体も。 皆、赤い。 どす黒い、赤色に染まっていた。 両親は、死んでいた。 そして、知らない男。 男は、箪笥を漁っていた手を止めて、こちらを向いた。 「誰かと思えば、ただのガキか、、、。」 私は、男に対してなんの感情もなかった。 ただ、返して、と思った。 私の家を返して。 お父さんを返して。 お母さんを返して。 私の家族を、返して。 気づけば男の服を掴んでいた。 「おいガキ!邪魔だ、どけ!」 力のない私は、簡単に振り払われてしまった。 どん、と尻もちをつく。 私は、咄嗟にその場にあった何かを掴んで、箪笥を漁ることに夢中になっている男の背中めがけて思いっきり振り上げた。 ぐじゃっ、と鈍い音がした。 男は倒れ込んで呻く。 私は、ナイフを持っていた。 そのまま何度も、倒れ込んだ男の顔めがけて振り下ろす。 「た、助けっ、、、。」 男の声をよそに、 執拗に、何度も、何度も。 別にそうしようと思ったわけじゃない。 ただただ、そうしなければならないと思った。 男が動かなくなって、やっと疲れが湧く。 私の中には、これからどうすればいいんだろうという思いしか無かった。 もう両親はいない。 なら、私はもうどうしようもないではないか。 くらり、視界が歪んだ気がした。
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