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白石ゆい。16歳の時に、初めて彼氏が出来ました。
彼は高校で同じクラス、明るくて人気のある男子でした。
その彼の名前は山田廉君。まさか彼が私の事を好きだなんて。
告白されて、舞い上がったのを覚えています。
付き合い始めたのは、高2の10月くらいでしたが、高3になる春休み。
2人で川沿いに咲いている桜並木のお花見に行きました。
私達はお互いに違う大学への進学を希望していました。
私はもし、大学に合格したら、地方から都会に引っ越す事が決まっていました。
それでも、来年もまた2人で会えるように約束し、桜の木の下で指切りをしたんです。
とても、幸せな思い出でした。
それから、1年後私達は大学に進学が決まり、約束通り再びお花見に来ました。
「また、来年も…」そう約束して。
しかし、私達は別れました。
理由は自然消滅。
だんだんとお互い連絡を取るのも減り、会う回数も減り……風の噂で彼に彼女がいると知りました。
でも、ショックはありませんでした。
そのうち、私も何度か恋愛を繰り返し、26歳で、結婚しました。
子供も産まれて、私はとても幸せでした。
しかし、その幸せも一瞬。
主人の浮気で離婚することが決定。
私はまだ2歳の娘を連れて、寒い冬に、実家に戻ることが決まりました。
そして、ゆっくりと春が訪れましたが、私の心はまだ冬の風のように冷たいまま、実家でボンヤリと過ごしていました。
"パートでも探さないとなぁ"
そう思いつつも中々気分が上がりません。
「気分転換に、散歩にでも行っておいで。さあちゃんは見ていてあげるから」
私は母の言うとおり、散歩に出ました。
さあちゃんと言うのは私の娘の事です。
久々に見る景色。懐かしい。
1人で歩くのも。
そして、例の桜並木も。
この桜並木、廉君とお花見したな。
今となっては甘酸っぱい思い出。
指切りをした桜の木の場所もちゃんと覚えていました。
あの頃に戻りたいな。
まだ少し冷たい風が桜吹雪を作ります。
桜並木には、沢山の人がお花見に来ていました。
だけど、その中で何故か1人、こちらへ向かってくる
1人だけが、やけに目に入りました。
「あっ……」
私は小さく息を止めました。
その人も、私に気がついたようです。
私はゆっくり息を吐き出します。
「廉くん……久しぶり」
「ゆい、ホントに久しぶり。あんまり変わってないね、昔のまま。こっち帰って来てるの?」
「あ、うん。実は…離婚しちゃって…娘連れて実家に戻ってきたんだ」
「そうなんだ、ごめん、余計な事聞いちゃって」
私は左右に首を振りました。
「ううん、いいの。廉君は?今、どうしてるの?」
「あー…俺も何年か前に結婚失敗しちゃって、今は仕事を生き甲斐にして頑張ってるとこさ」
私達は無言になりました。
その間も淡いピンクの花びらが周りに散っていきます。
「あの、さ」
先に口を開いたのは廉君でした。
私は廉君を見上げます。
「連絡先、交換しない?あ!友達として、だから」
「えっ、あ、うん、いいよ」
私達はお互いの連絡先を交換しました。
廉君と連絡先を交換するのは2度目ですが、初めての時のようにドキドキしました。
「今日、花見に来て良かった!まさか、ゆいと会えるなんて。これからもたまに、お茶でもつきあってくれよ」
「いいよ。私も今日はいい気分転換になった。ここに来て良かった」
「向こうの桜の木まで一緒に花見しよう。今が1番見頃らしいから」
私達は歩き出しました。
私の唇は自然に弧を描きました。
ようやく、私の心のつららも解け始めたと感じます。
偶然の出会いに感謝しました。
桜の花びらに乗った友情が、この後しばらくして、恋に変わるのは、私も廉君もまだ知らないこと。
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