頑張る精霊達と魔界の王子

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頑張る精霊達と魔界の王子

たいへんだ、大変だと騒ぎ回る精霊達はどうしていいかわからずに、右往左往するが、その中でも一番年嵩の風精霊がピシャリと手を打つ。 「落ち着きなさい!光と闇の精霊、そう、アナタとアナタ、それから火と風、水と土もよ。エルディアーナに着いて行って!絶対に守るのよ、良いわね?」 指示を出された精霊達は慌ててエルディアーナを追いかける。 「次は、瓶を持って転んだ男を探して、コレを渡して来なさい。今、丁度学園の車寄せで大騒ぎしてるわ。『シシリア嬢が持っていた小瓶からドラゴンが出てきた』ってね。この空の小瓶と巾着は、きっと証拠になるわ。エルディアーナと仲の良い令嬢達もクラブを終えて帰る所だし、上手くいけば、エルディアーナが早く助かるわ」 それから風の精霊は少し考える。 あの一団はエルディアーナの馬車の御者や騎士にバレない様に裏門へ向かったからーーーー。 「誰か、テオバルドに記憶を届けてくれるかしら。この騒動を知れば直ぐに助けに動くわ」 ##### 《エルディアーナ、目を覚まして》 《えるでぃあーな、おねがい、めをあけてー》 《皆んな、もう少し頑張って!エルディアーナの魔力を取って、抑えてー》 《王子とおなじにすればいいのー?》 エルディアーナは、身体を苛む息苦しさと重さが軽くなったのを感じて、瞼を開けた。 「ここはーー」 冷たく、かび臭い。指に触れるのは、剥き出しの石だろうか。 ザリッと触れた指先が掠る。 明り取りの窓も無く、ぼんやりした灯火を追えば、見える鉄格子。魔導ランプの灯りだろうか。 青銅の錆び付いた金具臭さが鼻につく。 人の気配は無い事にホッとする。あるのは精霊達の気配だ。 これなら精霊達と話をしても大丈夫だろう。 久しぶりの症状に苦笑いが出る。 こんなにも苦しいものだったかしら。 ギルベルトのお陰で、すっかりと忘れていた痛み。 今は精霊達が頑張ってくれているので、何とか動ける。 ギルベルトと言えば、大丈夫なのかーーーー。 いくら自浄作用があるとはいえ、毒が過ぎれば万が一もある。 エルディアーナは、背筋を襲う悪寒に身震いした。 シシリアが助けると言っていたが、信用出来ないし、あの魔導師も胡散臭い。 ギルベルトが、【同意】が無ければ取り出せないと言っていた精霊魂を、剥ぎとった男。 『シシリアとか言う女には気を付けろ。あれはお前と同じ【転生者】だ。しかもこの世界はゲームで、自分はヒロインだと抜かしている、頭のネジが無い奴だ』 不意に、先日ギルベルトに言われた言葉が蘇った。 どうやら、シシリアはエルディアーナの想像以上に、根性がひん曲がっているらしい。或は性格が悪いとでも言おうか。 シシリアが転生者だと、もう少し早く言ってくれても良かったとエルディアーナは思う。 この件で、ギルベルトと初めて喧嘩したのでちょっとモヤっとが復活する。 《王子は大丈夫ーあのドラゴンの毒じゃ死なないって》 《おうじはがんじょーなの》 《王子が来るまで僕達が守るのー》 精霊達が言うには、馬車まで引きずられたエルディアーナが気を失ってしまった所に、精霊達が来てくれたのだそうで、その後は、精霊達の結界のお陰で触れる事すら叶わずに、浮かせて牢まで運んだそうだ。 これから如何するか。 シシリアがエルディアーナをどうしたいかによるが、グズグズと時間が経てば選択肢も狭まる。 恐らくシシリアは、エルディアーナを盛大に断罪した後、良くて国外追放だろうか。悪くて処刑とかもありそうだ。 如何にも乙女ゲームにありそうな展開。 ギルベルトを待つ選択をするなら、イザと言う時の脱出経路の確保が必要になる。 これはちょっと現実味が無い。ギルベルトが助けに来ないと言う意味では無く、脱出経路の方だ。 「うーん、せめて方角が解らないと駄目ね」 キュルルっとお腹が鳴る。 アザリーの実、ちゃんと持っていてくれてるかしら、ギル。 ジャムにして、パンケーキに乗せて一緒に食べようと約束したのだ。 あれ位の毒では死なないと、精霊達のお墨付きが出たらお腹は正直だ。 「クリームもタップリで!」 《わーい、クリームすきー。おなかすいたねー》 ついうっかり言ってしまった。 食いしん坊の精霊が言えば連鎖するのか、アチコチでお腹空いた大合唱が始まる。 ーーーー何か持ってなかったかしら? 生憎、鞄はギルの空間だしーーーーあ。 エルディアーナがポケットを探ると、巾着に入れておいた金平糖があった。 うん、糖分だし、これで凌げるかな。 カララと音を立てて掌に乗せた金平糖を、精霊達に配る。 《ありがとうー》 《有り難うー》 《チュゥウー》 ーーーーーーーーん? ネズミの精霊っていたかしら。 恐る恐るエルディアーナが鳴き声の方を見れば、牢屋には居そうもない、矢鱈と毛並みの良い、金髪のネズミがそこに居た。 「ネズミって金平糖食べるのね」 カリポリと噛み砕くその様子は何処か人間臭い。 「僕はネズミじゃないぞ!」 「ネズミが喋った!?」 何だかとってもデジャヴ。 「だからネズミじゃ無いって言っている!人間如きに名を教えるのも、勿体無いーーーー」 「あ、じゃぁ聞かなくていいです」 「なんでだよ!有難く聞けよ!なんだ、お前ひょっとして魔力過多症か?なら丁度良い、少し貰うぞ」 「聞いてほしいのですか?って人の魔力を勝手にーーーー•••••••え?」 それは一瞬の出来事だった。 エルディアーナの魔力を勝手に吸い取った金髪のヤンキーネズミが消えて、いつの間にか七つ位の小さな男の子が立っていたのだ。金髪の。 「僕は魔界の王子、リカルドだ!」 取り敢えず、自己紹介として、エルディアーナです、と応えておいた。 この王子様は魔界を黙って抜け出したらしく、お忍びで人間界を彷徨っていた所、この場所へ迷い混んだらしい。 「なんか魔導師とやらに追いかけらたんだ。もしかして、王宮とやらに来てしまったのかも?」 ーーーー王宮であっていると思いますよ。 「それで、隠れる為にネズミになって逃げてたんだがーーーー」 「慣れない変化をして魔力を消費、切れる寸前だったと言うことですか?」 「あー、まぁそうとも言う。所でお前は何でこんな場所にいるんだ?」 エルディアーナはさぁ?と答えを濁す。 子供に聞かせたい話じゃないし、他人に言うことでも無いからだ。 ーーが、精霊達は違うようで。 「へー。それは難儀?だったんだな」 流石、魔界の王子というのは嘘では無いらしく、精霊達が見えてるし、話も出来る。 「それに、お前浄化が出来るのか!凄いな!実は僕が人間界に来たのも、浄化が出来る人間を探す為だったんだ。魔人には出来ないからな」 俯いて言ったリカルドは寂しそうな雰囲気だったが、気持ちを切り替えるのが早いのか、直ぐに顔を上げた。 「なぁ、僕に付いて来てくれないか?ここから出れるし、用が済んだらちゃんと送るから」 暗がりで表情は分からないが、真剣さは伝わってくる。 エルディアーナは事情を聞くと、少し考えてから頷いた。 出来るだけの範囲で良ければ、と。 「闇の精霊さん、ギルに言伝を頼める?あ、記憶を見せるってやつも出来るの?うん、お願いね?」 お駄賃の金平糖を掴ませると、闇の精霊はすうっと音も無く消えた。 「この子達も一緒に良いかしら?」 リカルドは一つ頷くと、エルディアーナの手を取ると、精霊達にも声を掛ける。 「転移するから皆僕に掴まって!」 穏やかな熱が全身を満たす。 暗い牢屋には淡い光すら眩しくて、エルディアーナは瞳を閉じる。 クラっとした感覚の後に訪れたのは、緑の香り。 そこは、良く手入れのされている庭園らしき場所だった。 ーーーーそして一か所に漂う夥しい瘴気。 リカルドが瘴気の場所を指して言う。 「あそこで魔王ーーーー僕の父上が病に臥していらっしゃる」
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