精霊王子と公爵令嬢

1/1
42人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ

精霊王子と公爵令嬢

細心の注意を払う。 大きな力は主を見失い、少女の身体の中で迷い、暴走する。 それをギルベルトが導くのだ。 ここで精霊魂を取り戻す事も考えたが、それをしてしまうと、少女がポックリ逝ってしまう可能性がある。 それは流石のギルベルトも目覚めが悪い。 仕方が無いから少しだけ貸してやる。 自分が動けるだけの力は貰うが。 唇を通して収束していく力に、ホッと力を抜く。 「ったく、世話の焼けるお子様だ」 と、床に胡座をかいて座ると少女が小さく見える。 ハッとして身体を見回すと、確かめた手の大きさが、少女の顔を覆う。 ーーーー身体の大きさが戻ったのか!? 一体どういう事だ。動けるだけの力は今先精霊魂からは取り出したが•••••呪いが解けたのか? 真実の愛とやらはどこ行った。 まぁ、とりあえずコイツを寝かさないと。 天蓋付きの寝台は少女らしく華やかだが、落ち着く色合いだ。 天蓋付きならば、金持ちの娘か。 寝室らしきこの部屋を観察すれば、なる程、どこかのお貴族様らしい。 靴を脱がせて、ブラウスのリボンを解き、呼吸を楽にした状態で寝かせてやれば、直ぐに聞こえる安らかな寝息。 額の汗を拭ってやると、それまで様子を伺っていた下級精霊達がワラワラと出てくる。 《エルディアーナ大丈夫?》 《もうへいきー?》 光の粒が枕元で騒ぎ出し、少女の顔があっという間に見えなくなる。 ギルベルトが手を振ると大人しくなったが、枕元から去ろうとはしない。 「コイツ、エルディアーナと言うのか」 《そうーーーー!》 《こうしゃくれいじょうっていうんだってー!》 「なる程な。その公爵令嬢のエルディアーナが今まで生きてこれたのは、お前たちのおかげもあった訳だ」 《わーい、おうじにほめてもらったー》 いや、別に褒めた訳ではないんだが。 精霊達の姦しさに溜め息を付いたが、ポフンと音がしたと思ったら、少し前の身の丈に戻っている。 なんだ!?呪いは解けたんじゃないのか!? 《おうじが小さくなったー》 《ちっちゃいねー》 「煩いぞお前たち。コイツが起きてしまうだろうが!」 短い解呪の時間だったな。3分程か。 ギルベルトはガックリと項垂れた。 そのまま視線をエルディアーナに向ければ、なんとも呑気に見える寝顔。 不思議な魂の持ち主だーーーーどちらかと言えば、【こちら】に近いだろう。 確かコイツーーーープラチナブロンドの長い髪、瞳の色は紫だったか。 黒い色彩が鮮やかに変化していく。 ギルベルトの精霊魂が、体内ですっかり落ち着いたようだ。 と、同時にエルディアーナの長いまつげが震えて、アメジストの瞳が現れる。 「お、起きたか。具合はどうだ?」 焦点の合っていない瞳がギルベルトを捉えた。 拙い手が目を擦り、幾度かパチパチと瞬く。 「ーーーー貴方は•••••ッ!そうよ、精霊魂は、どうなったの?」 「そのままだ。エルディアーナ、お前の中に入ったまま。ったく、なんて無茶をするんだ。焦ったぞ。ああ、名前は精霊達が教えくれた」 ポカンとした顔も、人間にしては可愛いが、口を閉じろ。間抜けに見えるぞ。 「今更、返すとか言うなよ?今取り出したらお前、死ぬぞ」 小さな口を開けたり締めたりと、忙しい奴だな。 「な、ど、うしてーーーー」 「俺が、お前を死なせてしまう原因、にはなりたくないしな。人の一生なんて、俺のような精霊にとっては瞬きにも満たない。少しの間位は貸してやる。勿論、その魔力過多が治ったら返してもらうがな」 ひと言でいうなら、ギルベルトの気まぐれだ。 それにーーーーコイツの魔力過多は恐らく、治らないだろう。 どうせ精霊界には暫くは帰れないだろうし、その間地上(ここ)で遊んでいたって構わない。 一時の事とはいえ、解呪の状態になった訳も知りたいと思う。 見えない何かが、複雑に絡みあっている気がするのが、些か不安でもあるがーーーー今は良いとギルベルトは首を振る。 判断するには、不確定要素がありすぎた。 母上(ババア)は何かを知っているのか? ギルベルトが今考えても、答えは出ない。 ーーーー様子を見るか? 動くエネルギーは、夜中にでもこっそり貰えば問題無いしな。 離れていても補足可能かは、これから試せば良い。 「えと、ありがとうございます?」 「どうして疑問形を付ける。言っておくが、その精霊魂をお前が持っている限り、俺はお前から離れられないんだ。感謝しろよ!?」 《かんしゃしろよ!?》 仁王立ちで言い放った、ギルベルトの真似をした精霊達の声も揃う。 ーーーーポーズまで丁寧だな。おい。 「俺の名はギルベルト。精霊界の王子だ。今は呪いを掛けられて、小さいがな」 「エルディアーナ、です」 知っているが、そこは様式美と言うやつだろう。 ギルベルトは「ああ」と鷹揚に頷くと、エルディアーナに手を差し出す。挨拶の握手だ。 白く小さな人差し指が、おずおずとギルベルトの手に触れる。 こうしてギルベルトとエルディアーナの共同生活が始まりを迎えた。 #####読んでいただきありがとうございました(*´꒳`*)
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!