仕事

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 粕谷は円卓へ飲み物を運びに行く同僚を呼び止め、急用のために退勤する旨を告げた。業務用インカムを外しながら、会場の暗がりを縫って、隅のカーテンへと向かう。  憂いを帯びた表情の女性は、降壇した花園清華をまだ目で追っていた。 「双子の姉の、美華さんですね」  粕谷が話しかけると、美華は驚いた顔を向けた。 「私が、見えるのですか……?」 「ええ。私は成仏案内人です。聞いたことありますか?」  美華は再び驚いた顔をして、「はい、お噂はかねがね……」と複雑な感情を向けた。 「ご安心下さい。無理に成仏させたりはしません。霊たちの心残りを解消するお手伝いをしているんです」  粕谷の丁寧な話し方のせいか、美華は瞬きをして頷き、控えめに口角を上げた。 「美華さんの心残りは、清華さんにあるんですね?」  カーテンが僅かに揺れる。目の前の美華は浮かない表情のまま、ゆっくりと粕谷の目を見据えて訴えた。 「清華が心配なんです。あの子、このままじゃ壊れちゃうと思う」 「心配、ですか。……ここでは私が同僚に不審に思われます。場所を変えて、ゆっくり聞かせてください」  粕谷は美華の手を引き、報道陣や関係スタッフでごちゃついた会場を足早に抜けて外へ向かった。
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