仕事

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 壁一面に渡された重厚なカーテンが、一般人を寄せ付けない特別豪華な空間を際立たせる。壇上には、高い天井から下がるシャンデリア群の煌めきをも霞ませる、一人の可憐で清らかな若き女優。大小様々な照明が、彼女の透き通る肌と、今夜の特別なドレスの揺らめきを照らした。 「皆様、本日はありがとうございます。花園 清華(はなぞの きよか)です。えーこの度は、多くの皆様に支えられ、姉と共にこのような名誉ある賞を頂くことが出来ました。本当に本当に、心から嬉しく思っております。天国にいる美華(みか)もきっと、彼女の遺作となった本作品において、このような素晴らしい賞を頂くことができ、喜んでいると思います。この盾は、美華に捧げたいと思います」  瞳を潤ませ、囁くようなスピーチを終えた花園清華の艶やかなショートヘアがさらりと垂れて、盛大な拍手とフラッシュの嵐が起こる。  粕谷は、円卓に並ぶ豪華俳優陣をゆっくり拝めるチャンスもなく、後方の隅で拍手を送りながら、大きな窓に下がるカーテンの方を見やった。  拍手を送るでもなくこっそりと、カーテンに隠れるようにして壇上で輝く清純派女優をじっと見つめる女性。今まさににっこりと可憐な笑顔を向けて降壇しようとしている彼女と、そっくりな顔立ちをしている。  今夜も仕事がありそうだと、ふっと一息気合いを入れると、粕谷は静かに一歩踏み出した。
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