大好きの大好きの大好き

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大好きの大好きの大好き

 父ちゃんは住宅を売る営業マンだ。こんな父ちゃんだけど、すっごくすっごく優秀で、営業表彰されたことが何度もある。父ちゃんの会社では、毎月、その月の営業成績優秀社員を表彰する式が行われて、全社員が参列するそうだ。一位を取れば二百万円、二位なら百五十万円、三位は百万円、給料とは別にもらえる。父ちゃんは、何度となく二百万取ってきた。誰にでもこころから優しくて、明るくて面白くて、顧客の出す無理難題にも、柔軟な発想で瞬時に提案ができるので、売った顧客の紹介で話が決まることもたくさんあるらしい。  父ちゃんが報奨金をもらうと、お母さんと六花と三人で、お寿司を食べに行った。回らないお寿司、値段すら書いていないようなお寿司屋さん。父ちゃんは下戸で呑めないけど、お母さんは熱燗を少し吞んでいた。いつも陽気な父ちゃんだけど、こんな席ではさらに陽気で、六花とお母さんを笑わせた。  お母さんはすみれの花のようなひとだった。口数は少ないけど、いつも温かく見守ってくれていて、六花はお母さんと一緒にいると、なんだかとても安心するのだ。お母さんの周りには、安らぐような空気が流れている。 目も鼻も口も小さくて、控えめな顔立ちなのだけど、抜群に整っているから、綺麗なひとだとみんな思う。普段はお化粧しないけど、お化粧すると控えめなパーツが際立って、ため息が出るような美人になるのだ。透き通るような優しい声も、六花は大好きだった。細身の身体に、ふんわりとしたワンピースを纏っていることが多かった。  父ちゃんとお母さんはすごく仲が良かったけど、六花には兄弟がいない。 「お母さんはちょっと身体が弱いから、あまり負担を掛けたくないんだよ。」  と、父ちゃんは言っていた。そうして 「だから、父ちゃんとお母さんの宝物は、六花だけだ。」  そう言って、ぎゅっと抱きしめてくれた。六花はすごく嬉しくて、父ちゃんの大きな身体を抱きしめ返す。父ちゃんもお母さんも、大好きの大好きの大好きだ、と六花は思った。
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