触れられる理由をちょうだい

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 ドアが開くと同時に男性の手を引き、電車を降りた。  あまり名前も聞いたこともないし、小さな駅なのだろう。ホームには誰も人がいなかった。 「歩けますか?」 「すみません……」  ホームに三つ並んでいるベンチに座らせ、少し先にあった自販機で水を買い、それを渡した。  何から何まで申し訳ないと謝るその男性に、気にしなくていいと声をかけ、俺も隣に座った。  重い荷物を持っているお婆さんの手伝いをするとか、そういった人助けはこれまでに何度かしてきたけれど、痴漢されている男性を助けるのは初めてで、どうすべきなのか、どんな言葉をかけるべきなのか、さっぱり分からない。 「あの、スーツを脱いだらどうです? 汗がすごいから、とりあえず上着だけ脱いで、その……、額とか首とか、その他で拭けるところは拭いた方がいい気がするんですけど」 「……っ、」  そう言って、鞄を預かりますと手を伸ばせばその男性は一気に青ざめた。  震えが大きくなり、ぎゅうっと体を丸めている。  何も鞄を奪って持ち去ろうとしているわけじゃあないのだから、そんなに怯えなくてもいいのに。 「あの、別に俺、怪しい者じゃあないですよ?」 「……そうでなくて、その、……大丈夫なので、もう、帰っていただいて結構です、」 「この状況であんたを置いていけと? それにここ、多分そんなに電車来ないんで帰るに帰れないですよ」 「う……」  そんなやり取りをしている間にさらに男性の顔は青白くなり、冷や汗が額に浮かんでいる。  俺は男性のことなんかお構いなしに無理矢理その鞄を奪った。  それから、慌てる男性をよそに今朝詰めてきたハンドタオルを取り出すと、そのまま額へと押し当てた。 「んぁっ、」 「は?」  この状況に似合わない声が男性から漏れ、汗を拭くために見ていた額から体へと視線を落とせば、あぁ……と納得した。  痴漢にあって気持ち悪い、怖いと感じていても、体は別の反応を見せていたようだ。  電車から降りてすぐはまだ恐怖心が勝っていて、俺に触れることも俺が触れることもためらっていなかったのに、少しの落ち着きを取り戻して来た今、意識の対象が自分の体に移ってしまったのだろう。  羞恥心に支配され、体が敏感になっている。
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