第11話

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第11話

 空から人が落ちてきた。天使かと思っていた。 「きゃあああああ!」  周りの悲鳴でそれは飛び降りだと自覚した。  不自然な形になった人体から生きている気配はしない。天使かと思っていた人物は、何故か自分にそっくりだった。  吐き気がしてそそくさと騒然とした場から離れた。  女性は自動販売機で炭酸水を買って、胃に流し込む。吐きそうなのを帳消しにしてベンチに座る。 「癒し…癒しが必要だ」  コートのポケットからスマホから取り出して、通知欄に表示されたニュース、何気なく目に入った『釣り』という文字を見た。 「海か…自然に触れるのもいいな…」  関東にあるしょう南は言わずと知れたビーチだ。波も穏やかで、トンビさえ気にしなければ色々楽しい。  冬の海はそれはそれで良かった。 「海、って言ったら…泳ぐしかないよな」  海とあまり触れ合わなかった彼女はただ座り込んで、大海原を眺めていた。 「…」  現実逃避にも程がある。ただ海を眺めに電車を乗り継ぎ、ここまで来てしまったのだ。 「夕方には帰ろう」  インスゥタアアアに写真をあげるのもいいかもしれない。スマホで煌めく海原の写真を1枚撮って満足した。  数日後。リクルートスーツの女性とハンバーガーを食べていた時だった。 「なんかさあ、インスゥタアアアで話題になってる写真あるんだけどさあ」 「ミーハーですね」 「いや、何か…。一応聞くけど、超能力とか持ってないよね?」 「は?ワタシはアレではないですよ」 「だよね!じゃ、これ、見てほしい」  バッキバキに割れたスマホの画面には海が写っていた。「…あの、ヒビで見えない」 「ワロタあ」 「仕方ないですね、どう検索したら出ますか」 「海 人 心霊写真」  適当だな、と内心思いつつグウウグルウウで調べてみた。するとネットの話題ニュースでそれらしき記事が出てきた。 「…」  自分が撮った写真だった。アカウント名が自分のモノだった。  それに、海原の上に浮く──人。  それは死人のような顔をした自らがこちらを見つめていたからだ。  天使だと思った、あの顔と同じだ。 「天使です」 「へ?天使?」 「きっと天使がイタズラしたんでしょう」
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