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ふろ
女性は珍しく湯船に浸かって、安心感を得ようとしていた。
ネットで湯船に浸かればメンタルが良くなると説明されていたからだ。なら、久しぶりにシャワーはやめよう。
『実家』は嫌いだ。自分一人しかいないのだが、良い思い出がない。
しかし広めのバスタブがあるから仕方がない。
ぼんやりとしていると足が滑って、お湯に転倒した。「ごぼぼぼぼ!」
視界が泡だらけになり、溺死するのを覚悟する。
すると生ぬるい水の中、底がないのに気づいた。
「な、何だこれは!?」
気がつけば澄んだ湖の底が見える。溺れているはずの自分は冷静に、美しい水草や魚を眺めている。
ゆらめく太陽の光。水流。
これは夢なのか?
困惑しながらも、底で行列があるのを見つけた。
人の行列だった。
皆、蝋人形のように肌は白い。ずらずらと連なって歩いているように見えた。
「あれは、水死体か」
噂で聞いた事があった。
美しい湖の底にある死が、何だか皮肉に思えた。まだ、ああなる気は無い。
女性は目をつぶり、息を吸うと浴槽をイメージした。
水しぶきが舞い、気がつけば浴槽の縁を掴んでいる。
「くそ…全然、癒されなかった…」
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