2人が本棚に入れています
本棚に追加
あめ
陸橋の下にある短いトンネルに書かれた落書きを眺め、雨が止むのを待っていた。手向けられた古びた花たばが雨粒に濡れる。
通り雨だから、と待っているのに酷くなっていく。女性はスマホを取り出し、雨雲レーダーを確認した。
「ゲリラ豪雨かあ」
「こんにちは。傘、ないんですか」
ビニール傘を片手に歩いてきた女子高生に、彼女は振り向いた。
「天気予報で大気が不安定になるってやってましたよ」
「ああ…傘、なくしちゃうんですよ。だから持つのやめました」
「変わってますね」
苦笑した若者に、こちらも笑うしかなかった。
「あれ、いつものアレいないんですか?」
やけに静か、と周りを見わした。
「現れる時とそうでない時がありますからねえ」
「は、はあ…まあ、いない方が静かで楽ですもん」
「お前らーーーーー!!!」
「ゲッきた」
畑からリクルートスーツを着た女性が走ってきた。「悪口言うなーーー!!」
「どっからきたの?!」
「それ──げぎゃア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛?!」
いきなりの落雷に、ヤツは打たれ、眩く光る。一瞬の破裂音に耳がやられた。「きゃあああああ!!」
「天罰、か」
「いたたたたた!!?な、なに?!ひどくない???こんわく!」
黒焦げになった女性は座りながら喚いた。
「い、生きてる…」
「天罰いうな!」
「いや、あれは捕食ですね。相手が悪かったようだな!」
空を睨みつけると、1ヶ所、変にどす黒い雷雲が不自然にゆっくりと移動していった。
「は?は???」
目を丸くした女子高生に、女性は花たばを指さした。
「1週間前、ここで落雷があったんですよ」
「あー、あの日、落ちてたかも」
「貴方、狙われていたんですよ」
「えっ」
「たまにさあ、傘に落ちるって言うし」
破けたリクルートスーツを正しながら、付け加える。
「またどこかで落とすんでしょうね。アレは」
「…。あの、怖いから一緒に帰ってくれませんか…」
最初のコメントを投稿しよう!