青い夏は、透明の味がした

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――――――  そうだ、私はあの時、撮影場所で考えていた工事現場は諦め、代わりに近所の廃屋に忍び込んだのだ。似たような景色が撮れると思ったから。 『マジでこんな所入るのか…やめよーぜ?』 『もう、裕はビビリだなー。嫌なら外で待っててよ。すぐ終わるからさ』  そんな会話をしていたと思う。  カメラを持って、ボロボロの玄関のような所から侵入して。子供のようにワクワクしていたような気がする。  だけど、撮影スポットを探していた時に、事故が起きた――  あまりの建物の老朽化に耐え切れず、最悪のタイミングで天井が崩れ落ちてきたのだ。  物凄い音が響き渡る。その後は憶えていない。  気付いたら公園で裕と一緒にいて、持っていたはずのカメラが無くなっていた。 ―――――― 「私…、私は……」  震えながら頭を押さえたままの夏希を見て、裕はぽつりぽつりと当時の出来事を説明し始めた。 「あの時、廃屋の中にいたはずの夏希が…どうしても見つからなかった。代わりに、壊れたカメラだけが現場に残っていたんだ」 「……」 「だから、俺は信じていた。夏希は無事だと。きっと逃げて別の所にいるのだと」  外で撮影が終わるのを待っていた裕は、目の前で建物が崩れるのを見た。  即座に警察と救急車を呼び、夏希の無事を祈る。 しかし、いくら探しても彼女の姿が見当たらない。  結局この事故は、現場が無人の間に起きた不幸中の幸いということで処理された。 「その翌日……夏希は公園に現れた。 俺は安心してお前に話し掛けた。だけど――」  夏希の身体はすでに透けていた。 『ママ、あのお兄ちゃん一人で喋ってるよ』 『コラ!指差さないの!』  彼女と会話する裕を見て不思議がる通行人。  周囲の反応で確信してしまった。  夏希はもう、この世の存在では無いのだということを。  それでも、 『はい、今日のお弁当だよ!』  夏希は普段と変わらぬ様子で裕に弁当を手渡してきた。 『…おう、いつもありがとな! それじゃあ早速いただきます!!』  だから、気づかないふりをした。
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