青い夏は、透明の味がした

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今日から夏休み。 高校2年の(ゆう)は、公園で幼馴染の夏希(なつき)が作った弁当を食べながら何気ない会話を楽しんでいた。 「うむ!やっぱり夏希の弁当は美味いな」 「でしょー?」 「お前はもう少しガサツさが無くなればいい嫁さんになるよ」 べしっ 「一言余計だっつの!」 どこから出したのか、うちわで裕の頭を叩く。 仕事で両親が不在の裕は、一人暮らし同然の生活をしていた。そのため、どうしても食事が手抜きになってしまう。 料理が得意な夏希は、そんな裕のために毎日弁当を作っていたのだ。 「そうそう裕、私次はこれに応募しようと思ってるんだ!」 そう言って夏希はバッグの中からA4サイズのチラシを取り出す。チラシには、「あなたの好きな景色を教えて」と大きく書かれていた。 夏希は料理の他に、写真を撮る趣味があった。丁度写真のコンペが募集中で、絶対に応募するのだと張り切っているようだ。 テーマは「好きな景色」。 「んで、夏希は何を撮るんだ?」 「ズバリ!私は空が好きです!!」 「空にも色々あるからなー。青空に曇り空、夕焼け空とかもあるし、夏希はどこでどんな空を撮るつもりだ?」 裕がさりげなく聞いてみると、夏希は「よくぞ聞いてくれました」と言わんばかりに、得意気に人差し指を立てて答えた。 「ふふっ!天気も時間帯も重要だけどー、私は場所にもこだわりたい!と言う訳で駅近の建設中のビルに潜り込んで撮って来ます!!」 「バカかお前は」 即答で却下する。 「何でバカにすんのよ!他の人と違った視点で撮らないと埋もれちゃうじゃん!暗い鉄骨とコンクリートの隙間から漏れてくる光……そこから覗いた景色から見える青空と言う希望…素敵だと思わない?」 謎のこだわりを語りだす夏希。 普段から彼女は目の付け所が変わっており、こんな風に突拍子も無いことを言い出すのも珍しくはない。 またか……と呆れながらも裕が、しっかりと説得して軌道修正するところまでがセットだ。 「関係者以外立ち入り禁止の看板が読めないのかお前は?危険だし、絶っっ対にやめとけよ?」 裕は少し強めに言ったつもりだったが、夏希は珍しく納得がいかない模様だ。 「裕はいいよね。頭いいし、進路だってすぐ決まりそう。私には取り柄がないのよ…頭悪いしスポーツはまぁまぁできても他の凄い人に比べたら全然だし。趣味でやってる写真ぐらいしか、周りに褒められたことがないのよ…」 「料理が得意なのも才能だと思うけどねー」 エビフライをもぐもぐと食べながら、裕は彼女の弁当を褒める。これはお世辞ではなく、本当にそう思ったから言ったのだが。 「みんなできるよ、それぐらい」 そう言っていじけてしまった。 彼女も将来に対する悩みがあるのかと少し驚く。 「あのなー、ビルに侵入して作業員や学校にバレた方が進路やばいんじゃね?もっと問題無い場所にしよーぜ」 俺も弁当のお礼に手伝ってやるからさ、と添えると夏希の顔に少しだけ笑顔が戻った。 「えー!いいのー?やったぁ手伝ってくれるの嬉しい!じゃあ頑張ったのご褒美にハーゲンダッツの新作奢ってねっ!」 「場所探しの手伝いじゃなくてそっちかよ!」
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