29人が本棚に入れています
本棚に追加
ドア越しに「優乃ー?」と、兄の心配そうな声が聞こえたけど、鍵をかけてベッドに倒れ込んだ。
あー、なんて可愛くない妹なんだ。
お兄ちゃんだってこんな妹にずっと手を焼いていたんだろうな。これからはほんと、自由に生きてほしい。あたしはあたしで頑張って生きていくから。
はぁ、とため息を吐き出した直後、スマホが鳴った。
着信表示は「雫」
もしかして、お兄ちゃんが雫に電話しろとでも言ったんじゃないか。そう思いながら、あたしは着信に応えた。
「……はい?」
『あ、優乃? 大丈夫?』
「……大丈夫って、なにが?」
『あ、えっと……今慎兄から連絡きて、優乃が荒れてるから話聞いてやってって』
気まずそうな雫の声に、あたしはやっぱりとまたしてもため息をつく。
「……なんでもない」
『ねぇ、優乃。今日これからデートしない?』
「……え?」
『伊吹先輩のこと優乃が誘ってよ。で、四人で遊びに行こう』
「え!? なんであたしがイブちゃんを誘わなきゃないの?」
『お願い! あたし優乃と慎兄と一緒に遊びたいの。でも、きっと三人だと優乃は嫌だろうから、伊吹先輩に来て貰えばちょうど良くない?』
……ちょうどいい? とは?
『とりあえず、最近出来た動物ふれあいカフェとかどう?優乃ひよこ触ってみたいって言ってたことあったよね?いるよー、ふわふわのひよこ』
「……ひよこ?」
『そう、ふわふわの』
「……ふわふわ」
雫の言葉に頭の中でふわっふわの黄色い毛玉みたいなひよこが、ぴよぴよと鳴いているのを想像する。くるりと毛玉が振り返ると、愛らしいつぶらな瞳と小さなくちばしがパチクリと動く。
『ね、行こうよ』
「……行く」
『本当!? やった! じゃああたし慎兄にすぐ電話するから、優乃は伊吹先輩お願いね! あとは詳しくは慎兄から聞いてー』
ご機嫌に通話が終了して、あたしはしばらくぼうっとしてしまう。
スマホに視線を落として、しばし考える。
あれ? あたし、イブちゃんの連絡先知らないよね?
連絡先リストに男の子の名前などもちろんない。あるのは父と兄くらいだ。
「え、どうやって誘おう?」
顎に手を置いてまたまた悩み始める。と、いきなりスマホが鳴るから驚いた。
画面を見て、さらに驚く。
表示されたのは、メッセージが届いている通知。アイコンはたんぽぽ。
》優乃! デートのお誘いありがとうー♡
初めて送られてきた知らないたんぽぽのアイコン相手から、なぜかデートのワード。
もしかして……
最初のコメントを投稿しよう!