29人が本棚に入れています
本棚に追加
俯いていたあたしは、力を込めていた拳を緩めてハッとした。
「いや、ごめんは俺の方だ。大事な妹を不安にさせる原因つくってるのは全て俺だ。ほんと、ごめんな、夢乃」
そっと近付いてきた兄があたしに触れようとした瞬間、反射的に身体が後ずさる。
「……優乃?」
今まで、どんなことがあってもお兄ちゃんさえいれば大丈夫って、必ずお兄ちゃんはあたしのことをいつでも優しく包み込んでくれるって、確信していた。
だけど、今はもう、信用できない。
「あたし、今日行かない」
二人と目を合わせることなく告げる。階段を駆け上がって、あたしは乱暴にドアを閉めると自分の部屋に閉じこもった。
すぐにお兄ちゃんが追いかけて来て、「優乃ごめんな」とドア越しに謝ってくるけど、あたしは何も答えずにベッドにうつ伏せたまま。しばらくして体勢を仰向けに変えると、天井を見つめた。
ため息をついて、目を瞑る。
『……ごめん』
なんでか、さっき聞こえたイブちゃんの声を思い出す。
寂しげで、小さく聞こえた「ごめん」が、なぜだか胸をズキズキさせる。
あたし、酷いこと言ったかもしれない。
でも、間違ってない。
男の子なんてみんな一緒だ。結局、お兄ちゃんだって一緒だった。あたしの味方じゃなくなったお兄ちゃんは、意地悪してくるその辺の男子と一緒。
ずっとずっと、あたしに優しいお兄ちゃんでいてほしかったのに。
湧き上がってくる感情をグッと飲み込んで、熱くなった目元を腕で拭った。
コンコンッと部屋のドアがノックされる。
どうせ兄が謝りにでもきたんだろうと、あたしはドアに背中を向けた。
「……優乃、俺。ちょっとだけ話せない?」
聞こえてきたのは、兄の声じゃなくて、イブちゃんの声。
あたしはドキッと飛び跳ねる心臓をギュッと抑えてベッドから起き上がった。
最初のコメントを投稿しよう!