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鍵のかかったドアをジッと見つめていると、また声が聞こえる。
「開けなくていいから、そのままで聞いて」
穏やかなイブちゃんの声は、少しいつもの迫力あって元気な雰囲気とは違って聞こえる。
「俺ね、優乃のこと、あの頃からずっと好きだった。入試の時に慎一郎と再会したのは、偶然でもなんでもない。俺が慎一郎に近づく為に今の高校を選んだんだよ」
お兄ちゃんに、近づく為?
ため息まで聞こえてくるから、なんだかイブちゃんの顔が見えなくても、胸がズキリと痛む。
「結局は慎一郎を利用して、優乃に近づく為でもあったんだ。条件付きで優乃の護衛を任された時はめちゃくちゃ嬉しかった。でも、慎一郎から出された条件、全然守れてないんだよな。今までしつこくしてごめんな、優乃。もう、明日からは付き纏ったりしないから」
言いたいことを言い切ったのか、しばらく沈黙が続いた。あたしはその場から動けなくて、ただドアを見つめるしかなかった。
お兄ちゃんから出された条件って、一体何だったんだろう……
そこだけが、なんだか無性に気になる。
あたしはスマホに目を落として、兄にメッセージを送った。
》イブちゃんに出した、あたしに対する条件って、なんなの?
すぐに既読がついて、返信が来る。
》いつも優乃を笑顔でいさせること!
「優乃……」
もうそこにいないと思っていたのに、またイブちゃんの声が聞こえてきて、あたしは顔を上げた。
「最後に、俺と一回でいいからデートして。そしたら、キッパリ諦めるから」
「諦める」の言葉に、胸が痛む。
只野に言われた時とは全然違う気持ちがあたしの中で渦巻く。
イブちゃんには、諦めるなんて言葉は似合わない。だけど、それを言わせてしまっているのは、あたしだ。
あたしは、一体どうしたいんだろう。ぐるぐると頭の中で色んな感情が渦巻き始めて、頭を抱えた。
「どうしたいか」なんて、やっぱりよくわかんない。だから、あたしが「どうなりたいのか」で行動しても良いのかな……
勇気を出して、あたしはドアの前に立つ。
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